一本木 透『あなたに心はありますか?』
人間という名の「ブラックボックス」
AIに心は宿るのか、心を持ったらどうなるか──。
それは、多くのドラマ、映画、演劇、漫画、小説などに取り上げられてきた、人気かつトレンドのテーマです。先行作品は数知れず。それゆえ、途中でネタに勘付かれてしまったり、他の作家さんの作品とネタがかぶったり、というリスクも抱えます。
それでも、あえて私がこの作品に挑戦したいと思ったのは、AIロボットを通じてこそ「人間の心」を描ける気がしたからです。
AIロボットの登場に、人間の心が掻き乱される。非人間に、人間が自身の本性を知らされる。そんな悲劇とアイロニーを、逆説的ゆえに効果的に伝えられると考えました。
つまり、描きたかったのは、赤裸々なまでの「人間」の姿です。
本作を執筆中に、世間はいつのまにか「ChatGPT」など生成AIの話題で持ちきりになっていました。日進月歩のAI技術が、今後人類に及ぼす影響は未知数です。その先に待っているのは夢か悪夢か。未来を左右しかねない不気味さも感じます。
一方、多くの科学者が「AIロボットに心を持たせられないか」と、今なお夢とロマンを託して挑戦を続けています。現実のAIアンドロイド技術の研究・開発者の多くが、その動機を「人間を知りたいから」と語っています。
作家も同じかもしれません。
私流に言うならば「人間の正体を明らかにしたい」です。つまり科学者も作家も、人間に興味津々であり、「人間の解明」は多くの作家たちが追い求めている極上の「謎解き」だと思うのです。
時に愚かで、時に崇高でもある、人間という名の不可思議な「ブラックボックス」。
この作品に込めたメッセージが、多くの方の心に届きますように。
一本木 透(いっぽんぎ・とおる)
1961年、東京都生まれ。早稲田大学卒。元朝日新聞記者。2017年、『だから殺せなかった』で第27回鮎川哲也賞優秀賞を受賞しデビュー。同作は WOWOW で連続ドラマ化される。本作『あなたに心はありますか?』が二作目となる。
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『あなたに心はありますか?』
著/一本木 透