週末は書店へ行こう! 目利き書店員のブックガイド vol.159 精文館書店中島新町店 久田かおりさん
罪を犯す人間の業を描き続ける薬丸岳の新刊は、罪の向こうのあった友情の物語だ。
父を亡くし恋人にも去られ孤独をさまよう弁護士快彦。20年も音信不通だった従兄弟亮介は殺人罪で服役中。そんな亮介からの不可解な身元引受人依頼。なぜ突然自分に?
小学生の時の母の自死、父親が遺した母からの手紙の秘密、突然降ってわいた亮介との同居。快彦の生活も心も混乱していく……
人を傷つけたり人に傷つけられたりしたくない快彦は、そのために人と深く関わる事を避けてきた。それで構わないはずだった。
そう、そのために暗く狭い籠の中を選んできた孤独な心は、扉を開いてくれる温かい手をずっと待っていたのかもしれない。
ノックもなしに飛び込んできた亮介によって連れ出された外の世界。でも、亮介の抱える罪はあまりに大きすぎた。
人は一人で生きていける。誰にも頼らず、誰にも心を開かず、誰からも必要とされず、ただ一人きりで。そう思って生きてきた快彦が、お調子者で人懐こい亮介や、疎遠になっていた地元の同級生たちとの交流によって変わっていく、その変化がうれしくてうきうきとページをめくっていく。かたくなだった快彦の心が亮介の明るさで少しずつ溶けていく。快彦と元恋人との不器用なやりとりに今までの薬丸小説とは一味違う軽やかさやユーモアを感じ、このままいい話で終わるのか、と思い始めたところで突きつけられる快彦の出生の秘密。
その時、いったい何があったのか。お人好しの亮介が殺人という罪を犯した本当の理由は何なのか。
どうかどうか快彦に本当のことを知られないまま、このままふたりで仲良く平穏に暮らさせてください、と、はかない願いを抱えてページをめくっていく。
そんな願いもむなしく見ないふりをしていた過去から届いてしまった真実。絡まったままの糸がほどけて全てが繋がったときの衝撃たるや。
けれど、亮介の決意と快彦の思いが土砂降りの後の晴れ間を連れてくる。二人が踏み出す新しい一歩の、その尊さに思わず涙がこぼれる。
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久田かおり(ひさだ・かおり)
「着いたところが目的地」がモットーの名古屋の迷子書店員です。