週末は書店へ行こう! 目利き書店員のブックガイド vol.64 八重洲ブックセンター京急百貨店上大岡店 平井真実さん
- 書店員さん おすすめ本コラム
- 「山田五郎 オトナの教養講座」 世界一やばい西洋絵画の見方入門
- 小学館文庫
- 山田五郎
- 川内有緒
- 平井真実
- 日本で見られる現代アート傑作11
- 目の見えない白鳥さんとアートを見にいく
- 目利き書店員のブックガイド
- 秋元雄史
『「山田五郎 オトナの教養講座」 世界一やばい西洋絵画の見方入門』
山田五郎
宝島社
空高く涼しい風が吹くたびに秋を少しずつ感じる今日この頃。秋といえば食欲、スポーツ、読書、芸術といわれるが芸術の秋ってなぜ秋なのだろうかとふと思った。調べてみたところ、大正時代にとある雑誌に「美術の秋」という言葉が使われ、そこから芸術の秋となったとのこと。
ということで読書の秋、芸術の秋を一緒に体感できる今回紹介したい本は、『「山田五郎 オトナの教養講座」世界一やばい西洋絵画見方入門』。
こちらは山田五郎さんの YouTube「山田五郎 オトナの教養講座」で西洋絵画を扱った回の書籍化。登録者数45万人の大きなチャンネルである。本書にも紹介されている絵画の各ページに絵画のタイトルとQRコードがついており、気になった絵画があればすぐに動画に飛び、視覚と聴覚からも楽しめるようになっているのが素晴らしい。文字だけだとページ数に制約があるが、さらに詳しく動画と共に山田さんの説明を聞くことができるのである。
余談だが、小説の中に出てくる地名や、時代小説なら地形や武士の名前などが気になり、調べ始めたらそのまま作品に戻ってこられなくなってしまった経験とかないだろうか。小説にもこうやって資料をQRでつけてくれたら嬉しいな、と思う。ページをめくるとその作品の舞台におけるにおいなども再現できたら、なんて未来の読書体験に夢をはせてしまう。
嗅覚や触覚と読書……検索……ああ、また脱線して違う方向に行ってしまうところだった。
話を戻そう。本書はオールカラーで写真も多数使われており、吹き出しに書かれている山田さんの感想であろうちょっとしたツッコミもとても楽しい。冒頭に早わかり西洋美術史年表があり、ルネサンス時代から近代まで主な歴史のできごとと共に記されている。そのあとのざっくり人物相関図が特にわかりやすく、画家同士の繋がりやエピソードが一目でわかるようになっている。教科書に載っている有名な画家も、私たちと変わらない人間なのだな、いや、今の時代にこの方がいたら社会に受け入れられるのだろうか……などと心配になったりもするくらい、身近に感じることができる。
そのあとから活躍した時代順に43人の画家を3〜4ページずつ使って詳しく紹介しており、各々のタイトルがまた秀逸でこれだけ見ていても楽しい。
父と子が同じ名前で、ともに有名な画家であるハンス・ホルバイン。こちらで紹介されている「大使たち」はホルバイン(子)の作品であるが、そちらについたタイトルは「不吉なものをこっそり描き込む これってただの嫌がらせ?」。
教科書にも載っている有名なホルバイン(子)の「大使たち」。二人の男性の間に不自然な物体があり、斜め下から見るとドクロが浮かび上がってくる作品。これは決して嫌がらせで忍び込ませたわけではなく、西洋絵画のメメントモリの画題で盛者必衰の教えを説くものであり、死はわからないうちに忍び寄るというメッセージが込められているのではないか。人はいつ死ぬかわからないから今の若さを思いっきり満喫せよと励ます意味で入れたのではないか、という説明がとてもしっくりと感じる。
フェルメールは「キューピッドは出てきて正解だったのか?」。かの有名な「窓辺で手紙を読む女」を調査したところ、余白にキューピッドの画中画が描かれていた。2021年に修復で蘇らせ公開したところ、修復前とどちらが良かったかと議論が巻き起こったとのこと。修復前と後の写真が載っており、前の方が余韻があってよかったのでは?と私でも思ってしまったくらい。その後もルソーの「嘘から出たジャングル絵画」などなど、気になった方はぜひ本書を。日本人の画家も2人、高橋由一さんと原田直次郎さんが紹介されている。
美術鑑賞は難しいと思っている方でも、本書を読んで気になったらぜひ美術館に足を運んでみてほしい。直接作品に対峙すると、なにもわからなくてもただただ心が震えてしかたがないことがある。そこから気になった作品の歴史や背景を知ることで、あらたに見えてくるものがどんどん増えていくのが美術鑑賞の楽しさなのではないかなと思う。読書も同じで、読んでいる自分の今の状況で作品の見方や印象が変わることもあるが、それは誰かから正しい読み方を教わるものではなく、自分が一人で感じるものなのではと思う。楽しい美術鑑賞ライフを!
あわせて読みたい本
『目の見えない白鳥さんとアートを見にいく』
川内有緒
集英社インターナショナル
全盲の白鳥さんと一緒に美術館へ行き、アートを目に入ったそのままに説明していく作者の川内さんと友人のマイティ。白鳥さんはアートを目で見るのではなく耳で見ているのである。言語化することでその作品の細かい描写を自分でも新たに「見る」ことができる。美術の見方の正解を探し当て、全員が同じようにその作品を見ることではない。お互いの言葉に耳を傾け新しい「まなざし」を獲得するのだという言葉には、美術を超えた他人とのかかわり方、優しさとはどういうことなのかというのを考えさせられる。
おすすめの小学館文庫
『日本で見られる現代アート傑作11』
秋元雄史
小学館文庫
現代アートは難解で、と勝手に敷居をあげてしまっていた私。本書の「作品を知識の力を借りて見てもいいし、アーティストの生きざまに共感しながら見てもいいし、自分の直感を頼りに感じていってもいいのです」という言葉に背中を押され、先日近代美術館に行ってきた。展覧会を待たずともすぐ行ける場所にある作品たちをこの本書を持って巡ってみたい。