週末は書店へ行こう! 目利き書店員のブックガイド vol.94 紀伊國屋書店福岡本店 宗岡敦子さん
20代の時に水泳中毒になった。社会人になり、気力、体力のなさに絶望し、これではダメだと思い始めたのがきっかけだった。
運動音痴のため、陸上スポーツは壊滅的。泳げないが、水中歩行ならできると思いプールに通い始める。
最初は歩行だけだったが、すいすい泳ぐみなさんを見て、自分もあんな風に泳いでみたいと思い練習を始めた。
だが、全く泳げない素人が我流で練習すると、当たり前だが溺れてしまう。しかも泳ぎ終わると、なぜか打撲とすり傷だらけになっていた。
そんな私を見かねて、優しい周りの方々が指導をしてくれた。
少しずつ泳げるようになり、それがすごく嬉しくて、すっかり水泳愛に目覚めてしまう。
休みの日は4時間練習し、自宅では教本を読みあさり、毎日 YouTube でフォームを勉強。ついには12時間耐久スイムにも出場した。あまりの中毒ぶりに、家族も周りもドン引きしていた。
そんな時に出逢った1冊が奥田英朗先生の『イン・ザ・プール』
この登場人物の患者は私です。そう叫びたくなるほど大共感。そして奇人の精神科医 伊良部先生との出逢いだった。
そんな大人気シリーズの17年ぶりの復活に嬉しさ爆発! 本作を、オススメ3ポイントにてご紹介させていただきたい!
『コメンテーター』
奥田英朗
文藝春秋
オススメポイント① 医学博士・伊良部先生が超個性的!
仰天発言、奇怪な行動に、極度の注射オタク。患者からは子どもの妖怪ではないかと思われてしまう。とにかく予測不能で天真爛漫なキャラクターに目が離せない。相棒看護師のマユミちゃんも必見だ。
オススメポイント② 治療方法がすごい!
伊良部流行動療法に大仰天。多くの人を巻き込み、時には警察沙汰にまでしてしまう。ただただ、驚きが止まらない。こんな方法で治療してしまうなんて、面白すぎて笑ってしまう。ぜひ、本書で確認してほしい。
オススメポイント③ 心の病とは何か!?
それぞれの患者さんの共通点。それは、みんなすごく良い人なのだ。真面目すぎるがゆえに、自分で自分の心を縛ってしまう。その過剰さが、心の病の引き金になってしまうのかもしれない。とにかく一生懸命なみなさんに、私の心も重なり応援していた。
「何事もバランスが大切」と言われることがあるが、時にはなりふり構わず振り切ってみるのも良いかもしれない。
自分を包んでいる「いつもの選択」というラベルをはいで、「いつもとは違う選択」をしてみる。
もしかしたら、その中で新しい発見や気づきに、心が救われることがあるかもしれない。
そして、自分を楽しませ、感動させ続ける努力こそが、心の風邪の予防ビタミンになるのではないかと感じた。
元気がほしい方、笑いたい方には、パンチがきいた伊良部療法をぜひオススメしたい!
(シリーズだが、本作からでも全然大丈夫!)
あわせて読みたい本
『心はどこへ消えた?』
東畑開人
文藝春秋
臨床・公認心理士である東畑先生の日常に笑い、考えさせられ、「はっ」と大切なことに気づかされる。「人は人を怖がったり、嫌いになることもあるけれど、結局人を求めることをやめられない」という一文がずっと胸に残っている。なくしてしまっていた大切な心を取り戻せるような、元気をいただけるエッセイ!
おすすめの小学館文庫
『満天のゴ-ル』
藤岡陽子
小学館文庫
生きていると、人と人との摩擦で傷つくことが必ずある。ただ、その傷を癒やしてくれるのは、やはり人なのである。生命のきらめきが、満天の星空のように輝く温かな人間ドラマ。タイトルの意味を知った時、気づいたら涙が溢れて止まらなかった。私もいつか、このゴールを目指して歩き続けていきたい。