◎編集者コラム◎

『脱藩さむらい 蜜柑の櫛』金子成人


◎編集者コラム◎ 『脱藩さむらい 蜜柑の櫛』金子成人
浜岡藩のモデルとなった島根県浜田城址を取材する著者。

 急にどうした、と突っ込まれそうですが、昨今、日本の経済成長を支えてきた名だたる企業の失態はどうしたことだろう。グローバリゼーションの荒波をもろに被った? そうね。IT化に乗り遅れた? かもね。しかし、それもこれも、詰まるところ経営陣に人材を得られなかったからじゃないのか。江戸時代の諸藩にも、きっと同じようなことはあったに違いない。

 舞台は石見国浜岡、日本海に面した架空の小藩だ。藩奉行所の同心頭・香坂又十郎と妻・万寿栄の平穏な暮らしが、ある日突然、終わりを告げる。又十郎に万寿栄の実弟を討て、との藩命が下ったのだ。江戸幕府にあって老中職を務める藩主・松平忠熙は三代前に浜岡に移封してきた、いわば新参者で、藩政の中枢を握る国家老の本田織部ら上州から帯同してきた家臣と、その風下に立たされる格好になった永久家老の馬淵平太夫ら生え抜きとの間には、隠然たる軋轢があった。そして両者の対立がついに表面化する。藩政改革を唱え、上州派を糾弾したのが、万寿栄の弟で勘定方の兵藤数馬。藩命に抗しえず、数馬を討った又十郎だが、それでお役御免とはいかなかった。江戸屋敷の目付・嶋尾久作は、藩のため、お家のためと言っては、浜岡藩が表に出せない汚れ仕事を押し付けてくる。国元にいる妻は、いわば人質にとられたも同然だ。又十郎に否も応もない。だが、このまま唯々諾々と嶋尾の言いなりになっていては、数馬が浮かばれない。

 鵺のような嶋尾の目をかいくぐって真相をさぐる又十郎。上州派の不正とはなにか。数馬が最期に呟いた、下屋敷お蔵方の筧道三郎とは何者なのか。

 日々の暮らしを神田八軒町の源七店の面々に助けられ、嶋尾の無理難題をこなしつつ、又十郎のたった一人の闘いが始まる。

 累計37万部に達する「付添い屋・六平太」シリーズの著者が挑んだ新境地、好評「脱藩さむらい」シリーズの第2弾、満を持して刊行!

 お家のためとは、往々にして、お家を食い物にする重役の常套句。踏み台にされてなるものか! そうではありませんか、読者諸兄姉。又十郎の孤軍奮闘に、どうぞ惜しみない拍手を。

──『脱藩さむらい 蜜柑の櫛』担当者より
 
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