◎編集者コラム◎

『狗賓童子の島』飯嶋和一


『狗賓童子の島』飯嶋和一


 のっけから脱線します。
「飯嶋和一にハズレなし」と書評家や一部の書店員の方々には言われています。しかしその飯嶋さん、出版社が主催するメジャーな賞を、いつも候補の段階で辞退してしまうので、一般の方々にはあまり認識されていません。それで「知る人ぞ知る」存在になって、いつの間にか「伝説の歴史作家」などと言われるように。もっとも前作『出星前夜』の大佛次郎賞に続き、本作『狗賓童子の島』は司馬遼太郎賞をいただいたので、伝説よりは少し現世に近づいたかなと思うのです が‥‥。

 さて、飯嶋さんの本を編集しだしてから20年になります。20年の間に単行本を5冊作りました。遅筆で知られる飯嶋さんですから、冊数は多くありません。しかし問題なのは作業の密度です。
 飯嶋さんはいつも、あまり一般的でない資料を使って書かれるので、まず校閲がたいへんになります。人名にしても地名にしても、おびただしい数が登場します。正しい読み方がわからないものも少なくありません。メジャーな名称は『国史大辞典』や『日本歴史地名大系』あたりでなんとかなりますが、それに載っていないものもあります。すると国会図書館に入り浸りになります。フリガナひとつ振るのに、えらく苦労することもあるのです。

 今回は地図の話をします。飯嶋さんの本に載っている地図は編集者が作っています。時代が古いため既製の地図が流用できず、いつも苦労して作ります。幸いなことに『狗賓童子の島』では、慶応元年(1865年)に描かれた隠岐・島後の絵図が島根大学のデジタルアーカイブにありました。それによって当時の村名(今と異なるものも)と、大まかな位置を知ることができました。国土地理院発行の地図を見ながら輪郭を描き、川の流路を入れ、最後に絵図を見ながら作品に登場する地名をポイントしていきます。村名と位置は、『隠岐視聴合記』という江戸前期に書かれた地誌でも念のため確認。こうして完成させたのが、本の巻頭の地図なのです。

 本書を読まれる際には、ぜひ地図も参照されて、作品世界を楽しんでいただければと思います。

──『狗賓童子の島』担当者より