採れたて本!【国内ミステリ#37】

採れたて本!【国内ミステリ#37】

 今年、最もインパクトの強い本のタイトルといえばこれだろう。『あーあ。 織守きょうや自業自得短編集』。メインタイトルが「あーあ。」である。しかもサブタイトルの「自業自得短編集」とは初めて目にする文字列である。そして目次を見ると「あーあ。」というタイトルの収録作はない。この時点で頭の中が「!」と「?」だらけになることは必至である。

 著者の織守きょうやは、『彼女はそこにいる』のようなホラーや、元弁護士としての法律知識を活かした『黒野葉月は鳥籠で眠らない』、サスペンス色が濃い『花束は毒』、孤島を舞台にした変則的倒叙ミステリにして本格ミステリの『ライアーハウスの殺人』等々、幅広い作風で知られるが、本書はそんな著者の多才ぶりが窺える一冊となっている。

 例えば巻頭の「幽霊刑」は、傍観罪という新たな罪が制定された社会が舞台。目撃した殺人を通報せずそのまま立ち去った主人公は、傍観罪によって不可視化装置を足首につけられる。それによって誰からも彼の姿は見えなくなるというのだが……。SF的設定で繰り広げられる寓話的な物語であり、同時に、「自業自得短編集」という本書のコンセプトがこの時点で何となく見えてくる。

 最もミステリ度が高いのは「目撃者」。妻を殺害された夫と、その事件を捜査する警察官、それぞれの視点で物語が進行する。無実の夫の嫌疑が濃くなってゆくサスペンスと、真相につながる意外な手掛かりが印象的な作品だ。

 一方、最もホラー要素が強いのは「壁の中」だ。作家のもとに、彼の秘密を知っているらしい女がやってきたが、ちょっと目を離した隙に彼女は死体になっていた。作家はその死体を地下室の壁の中に埋めたが……。作中でも言及されているエドガー・アラン・ポーの「黒猫」を想起させる展開だが、不条理な結末が異様な余韻を残す。心霊スポットだという噂のある廃墟を動画配信者が訪れる「廃墟で◯◯してみた」もホラー的展開になるかと思いきや、恐怖は意外な方向から降りかかってくる。

 振り込め詐欺をやっていた男が、その事実を知る恐喝者を始末するため美味しい話に乗る「夜明けが遠すぎる」と、モザンビークで日本人商社マンが轢き逃げ事故を起こし、被害者にかけられた呪いに苦しむ「五人目の呪術師」は、本書の中でも自業自得度がかなり高い。読後、思わず「あーあ、だから言わんこっちゃない」と呟きたくなるが、ここで読者の思いは本書のタイトルとぴったり一致するわけである。

あーあ。 織守きょうや自業自得短編集

『あーあ。織守きょうや自業自得短編集
織守きょうや
光文社

評者=千街晶之 

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