◎編集者コラム◎ 『錯迷』堂場瞬一

 ◎編集者コラム◎

『錯迷』堂場瞬一


錯迷

「孤立無援」

 これが今回の作品のメインテーマです。舞台は湘南鎌倉。神奈川県警捜査一課生え抜きのエリート刑事萩原哲郎に突然の異動命令が下されるところから物語は始まります。

 赴任先は重大事件の起こることはまれな湘南・鎌倉南署。さらに異例なのは署長としての赴任。なぜ横浜や川崎や相模原など、犯罪の多発する管内ではないのか。この人事異動の目的は、その鎌倉南署で起きた前女性署長の「死亡」事件の謎を探ることでした。不審点だらけのこの事件で鎌倉南署が県警に上げてきたのは心不全という報告。萩原はその死の謎を探るために、後継署長として送り込まれたのです。内部協力者はゼロ。赴任してすぐに萩原は気づきます。「この署は何かを隠している」。そして萩原の孤独な闘いがスタートしていきます……。

 この作品は、2015年6月からSTORY BOXで約1年連載され、今回文庫として登場しました。堂場作品としては珍しい、鎌倉が舞台となっています。堂場さんと作品の構想をうち合わせていたときに、あまり犯罪の起きない街が舞台というのはどうだろうかという案が浮上しました。東京近郊でのんびりしている街。そして閑静な住宅街があるところと探していき、鎌倉が選ばれました。執筆にあたって、堂場さんと鎌倉の街を1日ロケハンに。その甲斐あってとてもリアルな描写となっています。ただ、堂場作品だけあって観光名所は一切出てきません。出てくるのは、鎌倉在住や鎌倉に詳しい方々ならば、ああ、あそこがそうか。というような場所ばかりです。さすが堂場ワールド。そしてイラストレーターの小野利明さんが描くハードボイルド感満載の装画も見所のひとつです。鎌倉南署は実在しませんが、イラストの中にある主人公の背後に移っている三角形のビル。こちらは実在します。さてどこなのか。ヒントは元銀行。本作品を片手に、ひととき鎌倉を探索されるのも楽しいかもしれません。

──『錯迷』担当者より
◇長編小説◇飯嶋和一「北斗の星紋」第8回 後編
◎編集者コラム◎ 『トヨトミの野望』梶山三郎