週末は書店へ行こう! 目利き書店員のブックガイド vol.5 吉見書店竜南店 柳下博幸さん


 堂場瞬一作家デビュー20周年を記念したサイトにアンケートを提出したのは今年の春でした。その中で〝Q・こんな作品を読んでみたい〟との設問があり〝A・高校野球モノ。ありきたりかもしれませんが、堂場さんが書く高校野球はちょっとワクワクします〟と書いたところすぐに編集さんから返信があり「高校野球モノ、出しますよ」と。期待と共に読み始めたらこれがありきたりどころか流石の「堂場高校野球」だったのでここに紹介させてください。

『大連合』
堂場瞬一
実業之日本社

 県内ナンバーワン投手・里田を擁する新潟成南高校を悲運が襲う。試合後の選手を乗せたバスが横転。里田は軽傷だったものの部員の半数と監督が重傷を負い、夏の予選出場は絶望的となった。一方、かつての強豪校・鳥屋野高校は前年に発覚した監督のパワハラ問題で廃部の危機に瀕していた。地区予選エントリーまで2週間。鳥屋野高校キャプテンの尾沢は中学までバッテリーを組んでいた里田に「連合チーム」を組むことを持ち掛ける。

 部員数の少ない学校同士が甲子園を目指して連合チームを組む。しかし現実は厳しい。
 連携も団結も無い状態で挑む地区予選で勝ち進めるほど高校野球は易しくない。
 しかしそれが県内ナンバーワン投手とかつての野球名門校が組んだ連合チームだったら? そんな期待にワクワクしながらページを繰る。しかし序盤の展開は遅々として進まない。チームの不協和音に周囲の雑音。歯痒いシーンが続く。しかし後半怒涛の展開を前に気づく。これは実際の連合チームの混沌を表すためにわざとためている「堂場マジック」なんじゃないか!と。ライバルとの息詰まる死闘、いくつもの試練を乗り越え掴んだ感動はオリンピックとはまた違う、日本の高校野球の魅力を凝縮した作品なのです。

 本気で高校野球をやっていたというアルバイトの子を草野球に誘った事がある。それまでは気づかなかったがユニフォーム姿になるとえげつない太腿から力強く蹴りだしたストレートは、今までバッティングセンターで見ていた140キロとは桁違いの生きた鋭さでミットに突き刺さった。山奥からの自転車通学で自然と鍛え上げられた体躯をこのまま草野球で埋もれさせるのはもったいない。「部活、まだイケるでしょ。甲子園いけるんじゃない?」と問いかけた。彼は笑顔をみせたあとポツリと「部員がいないから……しょうがないです」。早すぎる引退をした彼はえげつない太腿をジーパンに隠し、卒業までの数年間返品段ボールを黙々と積み上げてくれた。高校野球のすばらしさを描いた『大連合』。甲子園を目指し、そして諦めた多くの彼らに読んで欲しい一冊です。

 

あわせて読みたい本

『20』
堂場瞬一
実業之日本社文庫

 投げている本人も達成できると思っていないノーヒットノーラン。少しづつゲームセットが近づくごとにヒリヒリが高まる。ラスト20球をめぐる攻防戦。前作『ラストダンス』『焔』と続くスターズの歴史を読み返したくなる熱い野球小説。

 

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『殻割る音』
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小学館文庫

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