◎編集者コラム◎ 『ザ・プラスワン マリハラがつらくて、カレを自作してみた。』著/サラ・アーチャー 訳/池本尚美

◎編集者コラム◎

『ザ・プラスワン マリハラがつらくて、カレを自作してみた。』著/サラ・アーチャー 訳/池本尚美


 ザ・プラスワン

「ロボットとなると、御社にご紹介しないわけにはいきません」 

 こんなメールとともに、このアメリカの小説(原題「THE PLUS ONE」)の原稿が送られてきたのは今から2年ほど前のこと。海外の小説は作家のエージェントを通じて紹介されることが多いのですが、この『ザ・プラスワン マリハラがつらくて、カレを自作してみた。』(以下TPO)のエージェントは『ロボット・イン・ザ・ガーデン』を始めとするタング・シリーズの担当者でもあります。私自身は、決してSF通なわけでもAIに詳しいわけでもない、むしろバリバリのアナログ人間。なのに、タング・シリーズや、やはりアンドロイドをテーマにした『iレイチェル』というイギリスの小説も編集したりしております。自分でも不思議なのですが、なぜか「ロボットと人間が暮らす話」と聞くと、マンガのシーンによくあるみたいに耳が(メールだからこの場合は目…?)ピクッと大きくなってしまうのです。これはやはり、幼少期にドラえもん愛をDNAレベルで擦り込まれた結果に他ならないとしか説明がつかないのですが、それはさておき、とにかくこのTPOのあらすじを聞いた時にも、すぐに「これは私が担当しないわけにはいかないだろう」と、妙にすんなりと思い込んでしまったのでした。 

 本作の主人公はシリコンバレーで働く29歳のロボットエンジニア、ケリー。新たなアンドロイドの開発プロジェクトに携わる優秀な女性なのですが、一方でプライベートはというと、かなりダメダメと言えるでしょう。人とのコミュニケーションが苦手な反面プライドが高く、仕事のパートナーとしてお願いして来てもらった心理学者に痛いところを突かれてムキになってしまい、相手を帰らせてしまうほどで、当然ながら恋愛も下手。そんな彼女には、「女の幸せ=結婚」と猛烈に迫ってくる毒親チックな母がいて、妹の結婚式に必ず「プラスワン(同伴者、つまりカレのことですね)」を連れてくるべし!とムチャぶりをされます。今どきそんな考え古すぎと抵抗しつつも、ケリーはどうしても母を無視しきれず、デートアプリやクラブ通いで何とかカレを作ろうと努力はするものの、結果は惨敗。で、思い詰めたあげく、なんと自分のスキルを生かしてカレを自作してしまおうとするわけですが…。 

 いやあ、とにかくケリーがイタ過ぎて愛おしくて、そして身につまされましたね。アラサーだったのは遙か昔のことですが、あの頃の自分を思い出し、何とも言えないこっぱずかしさも感じたり。29歳で仕事も充実していて…なんて、立派な自立した大人もいいところなのに、ケリーの母親ほど強烈な親がいるわけではないにしても、どこかで親に逆らえなかったり親の呪縛から逃れられない自分がいるという感覚は痛いほどわかって、ヒリヒリしてしまうほど。結局、人間は永遠の子どもなのかも…なんて、妙に遠い目をしてしまいましたね。 

 もちろん、そんなイタさだけでなく、ケリーの自作自演ぶりにゲラゲラ笑ったり、ロボカレとの関係にキュンキュンさせられたり、ダメダメながらに痛い経験を経て成長していくケリーにほろっとしてしまったり。久しぶりに若い頃に戻った気分(←ババくさ)で、楽しく編集作業をさせていただきました。 

 この楽しさをぜひ、多くの方に味わっていただきたいです。悩めるアラサー女子はもちろん、そうでない方も、気軽に手に取って読んでみてください!人気イラストレーターのシライシユウコさんによる、ティファニーブルーのカバーが目印ですよ。

──『ザ・プラスワン』担当者より

ザ・プラスワン マリハラがつらくて、カレを自作してみた。

『ザ・プラスワン マリハラがつらくて、カレを自作してみた。』
著/サラ・アーチャー 訳/池本尚美

文学的「今日は何の日?」【11/9~11/15】
金 誠『孫基禎――帝国日本の朝鮮人メダリスト』/日本と朝鮮半島の複雑な関係を、冷静な筆致で描く