◎編集者コラム◎ 『殻割る音』中村汐里
◎編集者コラム◎
『殻割る音』中村汐里
調理実習って、めちゃめちゃ楽しくなかったですか? 小学校のとき、家庭科の授業であなたは何を作ったでしょうか。私が覚えているのは豆腐と野菜の卵とじ。今思えば、地味……ではありますが、家でも作ったところ大好評で、調子に乗ってたびたび食卓にあげてもらっていました(母におだてられていただけとも言う)。
多くの人にとって、初めての料理=調理実習かもしれませんね。本書『殻割る音』の主人公、室本さくらもそう。初めてのコンロ、初めてのフライパンで挑んだのは、「理想の朝食」の献立のひとつ、スクランブルエッグ。真面目で引っ込み思案な性格のさくらは、班の仲間に急かされて、慌てて料理に取り掛かることに。ところがこれが功を奏し、できあがった一皿は、まるでホテルの朝食のようなふわふわトロトロの仕上がりに!
友人たちはもちろん、先生にまで褒められて舞い上がったさくらは、気づきます。料理って、楽しいかも、と。
家に帰ったさくらは、思い切って母親にお願いをしました。家でも料理がしたい、というごくごくシンプルなお願いです。が、母は首を縦に振りません。中学受験を控えたさくらは、勉強と両立させることを条件に、キッチンに立つことを許してもらうのですが……。
さてここからの紆余曲折、試行錯誤は本書を読んでのお楽しみ。著者の中村汐里さんは二人のお子さんを育てながら本作を執筆したそう。当時、娘さんは小学6年生になる直前で、主人公の等身大モデルとなったとか。そんなさくらの奮闘は、読んでいて思わず応援してしまいたくなる健気さです。
挑戦するということは、同時に、失敗することでもある。そこでさくらは、どのような道を見つけだすのか。両親に食べてもらうと決めたオムレツ作りは成功するのか。そして、受験の結果や、いかに。
この物語は、さくらの成長物語であると同時に、働き者で頑張り屋の母親・泉の物語でもあります。あるいは、母娘の物語とも言えるでしょうか。物語のラスト、さくらが見た景色と泉が見た景色。その眩しさを、皆さんにも味わっていただきたいです。
ちなみに、本書には美味しそうな料理がいくつも登場します。親友と食べる天使の羽のような軽さのバウムクーヘン、おばあちゃんが作る出汁巻き玉子、肉じゃがをリメイクしたあつあつコロッケ! 中でも私が心惹かれたのは、すき焼きに短冊に切った油揚げを入れる……というレシピ。目から鱗ですが、絶対美味しいに決まってる。今度作った時には、たっぷり卵に絡めて食べようと、今から楽しみです。
──『殻割る音』担当者より