週末は書店へ行こう! 目利き書店員のブックガイド vol.168 明林堂書店浮之城店 大塚亮一さん

目利き書店員のブックガイド 今週の担当 明林堂書店浮之城店 大塚亮一さん

『小鳥とリムジン』書影

『小鳥とリムジン』
小川 糸
ポプラ社

 今回、おすすめしたいのは、小川糸さんの『小鳥とリムジン』だ。

 その前に過去作のお話を・・・。

『食堂かたつむり』では、食べることは生きることだと、『ライオンのおやつ』では、死にむかうことは生きることだと教わった。

 未読の方はまずはこの2冊から読むことをおすすめする。

 今回はなにを教えてもらえるのだろうと想像を膨らませながらページを開いた。

  

 主人公は、家族に恵まれず、生きる術も住む場所もない過酷な状況で十代を過ごした小鳥。

 人を信じることもできず、人生を諦めたようにただ日々を過ごしていた。

 そんな小鳥のささやかな楽しみは、仕事の帰り道に、いつの間にか出来ていたお弁当屋さんから漂う、おいしそうな匂いを嗅ぐことだった。

 小鳥がどんな人生を歩んでいくのかが気になり始めて、どんどん読み進めてしまった。

  

 食べ物の匂いがふわーんと香ってきて、思わずゴクッと唾を飲み込んだ経験、皆さんにもありますよね。

 誰しも生きていると、しんどいなあーとか辛いなあとかいう状況に遭遇することがあると思います。

 小鳥はまさしくこんな状況に立たされてしまいます。

 そんな彼女は、初めは匂い、やがて味と、ひとつずつ感じることによって心が解放されていき、さらに人と出会うことにより、感覚が広がっていき、少しずつ自らの人生を再び歩み始めるのです。

 様々な情報がスマホやSNSで簡単に飛び交い、人との関係が希薄になっている現代に、人との繫がりや愛についてあらためて考えるきっかけをくれた、宝物のような物語だった。

 

あわせて読みたい本

『世界のすべて』書影

『世界のすべて』
畑野智美
光文社

 5年間勤めた会社を辞め、街の小さな喫茶店「ブルー」でアルバイトをする鳴海。「ブルー」には秘密を抱えた人々が集まってくる。打ち明けられる秘密に向き合う鳴海も周りには言えないある秘密を抱えていた。
 世の中が決めた常識やルールにとらわれずにホッとひと息できる場所があれば、さまざまな悩みも少しは軽くなるのかもしれない。多様性が叫ばれる現代にこの本を読むことで、それぞれの居場所を見つけ、救われる人がいてほしいと願わずにいられない。

 

おすすめの小学館文庫

天満つ星

『天満つ星』
中村汐里
小学館文庫

 料理が大好きなさくらは、中学校に進学し迷わず調理部に入部した。楽しいはずと心躍らせて部室に入ると、そこには他の部員とは明らかに雰囲気が違う少し風変りな、ななせという先輩がいた。さくらはこの先輩と、文化祭で開催されるお菓子コンテストに出場することになるのだが。
 先輩の持つある秘密を知ってからの二人のやりとりに釘付けにさせられ、コンテストに挑む姿に熱くなる。最後に夜空に浮かぶ星を見つめ、晴れやかな気持ちになる小説。

大塚亮一(おおつか・りょういち)
地方書店でも作家さんが行ってみたい!と思ってもらえることを目標に日々奮闘中。そしてお客様にもあの書店に行くとわくわくする!と思ってもらえるようなお店になることが最終目標の宮崎県の書店員。


椹野道流の英国つれづれ 第38回
藤原麻里菜『不器用のかたち』試し読み 第2弾「今の自分と石粉粘土」