文学的「今日は何の日?」【12/14~12/20】

あの名作が世に出た日。
憧れのヒロインの誕生日。
かの大作家の失恋記念日。
……そう、毎日が何かの記念日です。さて、今日は何の日でしょうか。
12月14日から始まる1週間を見てみましょう。

12月14日

大石内蔵助率いる赤穂四十七士が吉良上野介邸に討ち入り

元禄14年3月14日、江戸城・松の廊下で赤穂藩藩主・浅野内匠頭が抜刀し、高家肝煎・吉良上野介に刃傷に及ぶという事件が起こります。これにより浅野内匠頭は即日切腹を命じられ、所領も改易となりました。一方、吉良上野介に処罰はなく、赤穂藩の家臣たちは不満を募らせます。内匠頭の弟・浅野大学も閉門となり、浅野家再興の望みが絶えたことから、翌15年12月14日、浅野家家老・大石内蔵助が率いる浪士47名が吉良邸へ押し入り、吉良上野介を討ち取って恨みを晴らしました。この事件は大いに評判を呼び、芝居でも取り上げられるように。なかでも『仮名手本忠臣蔵』は、上演すれば必ず大入り満員となることから「芝居の独参湯」とも呼ばれ、時代を越えて人気の作品です。


出典:https://www.shogakukan.co.jp/books/09658077

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12月15日

裕福な質屋の内儀・お柳が奉公人と駆け落ち――平岩弓枝『御宿かわせみ』

江戸・大川端の旅籠「かわせみ」を舞台に、平岩弓枝が江戸の人情を描く人気シリーズ『御宿かわせみ』。第1作所収の「倉の中」において、かねという老女が首をくくろうとしたところ、縄をかけた松の木が折れて失敗し、「かわせみ」の女主人るいと女中のお吉に助けられました。単なる自殺未遂と見えた事件でしたが、かねが裕福な質屋・伊勢屋の主人の実母で健康にも問題がなく、死を選ぶ理由が見当たらないことに、岡っ引きの清七は疑問を覚えます。かねの息子・半兵衛にはお柳という妻がいましたが、前年の12月15日、奉公人の男と駆け落ちしていました。かねの嫁いびりが激しく、夫婦仲もうまくいっていなかったのです。この駆け落ちとかねの自殺未遂につながりはあるのでしょうか?


出典:https://www.amazon.co.jp/dp/4167168804/

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12月16日

天才棋士2人がしのぎを削る竜昇位戦第7局の2日目――柚月裕子『盤上の向日葵』

作者の柚月裕子自ら「将棋界を舞台にした『砂の器』(松本清張)」をテーマにしたと語る、ミステリー小説『盤上の向日葵』。前人未踏の七冠制覇を目指す壬生芳樹六冠と、実業界からプロに転身した異色の棋士・上条桂介。平成6年12月16日、天童市内のホテルで、2人の天才棋士がしのぎを削る竜昇位戦第7局の2日目が行われていました。そこに埼玉県警の刑事2人がやってきます。さいたま市天木山山中で発見された白骨死体の捜査のためでした。唯一の手がかりは、白骨死体と共に発見された初代菊水月作の名駒。600万円ともいわれるその駒を遺体の両手に握らせ、埋めたのは何者なのか? かつてプロ棋士を目指して奨励会に身を置いたこともある刑事・佐野直也の捜査の行方は……?


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12月17日

永井荷風、転居予定の築地の家が空かないため談判に出向く

明治から昭和にかけて活躍した作家・永井荷風は、大正6年9月16日から死の前日である昭和34年4月29日まで、日記『断腸亭日乗』をつけていました。「断腸亭」とは、腸の持病にちなんで自身の邸宅につけた名に由来します。さて、大正7年、荷風は大久保余丁町(現在の新宿区余丁町)の邸宅を売却し、京橋区(現在の中央区)築地に移転することになりました。ところが移転先の家の住人は、12月15日には引き払うと言いながら出て行く様子がありません。12月17日、ついに荷風は相手方に出向き、立ち退き・明け渡しの談判を行います。その結果、20日中に出ると話はまとまったこと、荷風も22日には築地に家財を運びこんだことなどが記されています。


出典:https://www.amazon.co.jp/dp/4000266810/

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12月18日

涼宮ハルヒが北高から姿を消す――谷川流『涼宮ハルヒの消失』

ありふれた日常に退屈し、非日常を渇望する北高生・涼宮ハルヒ。彼女が創設したクラブ「世界を大いに盛り上げるための涼宮ハルヒの団」、略してSOS団の仲間たちと繰り広げる「ビミョーに非日常系学園ストーリー」で広く支持されているのが、谷川流の「涼宮ハルヒ」シリーズです。その第4作『涼宮ハルヒの消失』において、12月18日に登校したSOS団の団員・キョンは、ハルヒがいないことに気づきます。しかも誰に聞いてもそんな人は知らないといい、SOS団は影も形もなく、団員だった生徒たちはキョンのこともよくわからない様子。団員の1人・古泉一樹に至っては所属クラスの1年9組ごと消え失せていました。昨日までの世界はどこに行ってしまったのでしょうか? 元の世界を取り戻すための、キョンの孤独な戦いが始まります。


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12月19日

世界一有名なクリスマス小説『クリスマス・キャロル』が出版される

1843年12月19日、ロンドンのチャップマン&ホール社からチャールズ・ディケンズの小説『クリスマス・キャロル』が出版されました。主人公は、冷酷で無慈悲、守銭奴と悪名高く、隣人からも商人仲間からも嫌われ者の老人・スクルージ。ある晩、かつての仕事仲間で、今では故人のマーレイの亡霊がスクルージを訪ねてきます。そして翌日から3晩続けて1人ずつ幽霊がやってくると予言し、去っていきました。はたしてその予言どおりに現れる幽霊たち。幽霊に伴われ、幼い過去の幸せなクリスマス、知人たちが過ごす現在の暖かなクリスマス、そしていずれ自分が送ることになる未来のクリスマスを目撃したスクルージの心に変化が……? クリスマスを迎える前に、読んでおきたい1冊です。


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12月20日

胆のう癌で入院中の安曇さんの誕生日――夏川草介『神様のカルテ』

自身も医師である夏川草介が、29歳の内科医・栗原一止かずとの奮闘を描く『神様のカルテ』。信州にある「24時間、365日対応」の本庄病院に勤務する一止は、大勢の患者を抱え、当直もこなす多忙な日々を送っていました。一止には母校である信州大学から医局入りの誘いが来ています。医学部時代からの友人・砂川は先端医療を学ぶ機会だと大学に行くことを勧めますが、一止は担当している患者を手放し移籍することをためらっていました。12月20日はそんな患者の1人で、胆のう癌で入院中の安曇さんの73回目の誕生日。食事制限をかけられ、病室からも出られない彼女の希望は、文明堂のカステラを食べることと、大好きな山を見ること。余命わずかな安曇さんのために、一止が下した決断とは……?


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初出:P+D MAGAZINE(2020/12/14)

今月のイチオシ本【警察小説】
◎編集者コラム◎ 『殻割る音』中村汐里