◎編集者コラム◎ 『俺はエージェント』大沢在昌

◎編集者コラム◎

『俺はエージェント』大沢在昌


 編集者としての会社人生を引き算で考え始めた頃、もう一度仕事をしたい作家の方がいました。直木賞作家の大沢在昌さんもその一人です。大沢さんとのお付き合いは「天牙(てんきば)」シリーズ(『天使の牙』『天使の爪』)の週刊誌連載の頃からなので、もう半世紀以上になります。「天牙シリーズの続編」を依頼したところ、「天牙より書きたい物語」が『俺はエージェント』でした。

 物語は下町の居酒屋にかかってきた一本の電話から始まります。――それは23年ぶりに復活した、あるエージェント組織の極秘ミッションでした。主人公はスパイ小説好きのフリーター青年・村井。元凄腕エージェントだったという常連客の白川老人と行動することになり、敵対する組織の殺し屋たちに命を狙われるはめになるのです。

 それだけではなく、このミッションに絡んでくる女性たちによって、村井青年は男のプライドをボロボロにされてしまいます。ヤンキー娘から元エージェントの老女まで、とにかく女性たちが強いのなんの!

 そういう意味でも、村井は大沢作品の主人公としては珍しいキャラクター設定で、「新宿鮫」とは真逆﹅﹅の新たなヒーロー(?)の誕生です。

 フリーター村井と白川老人という年齢差四十歳以上の〝迷コンビ〟が、時にぶつかり合いながらも巨悪組織の正体を暴いていくのですが、核心に近づくにつれて村井自身もまた追いつめられてしまいます。生きのびるためには、味方すら信用できない。裏切り者はいったい誰なのか? 誰が味方で誰が敵なのか、誰にもわからない絶体絶命の危機。逃げ道がどこにもない状況で、村井は人生に絶望しはじめるのですが……。

 うーん、これ以上はネタバレになってしまいます。編集者としては悔しいくらいに展開が予想できず、まさかまさかのどんでん返しの連続です。

 冒頭の57ページまで読み進むと、物語世界に一気に引き込まれます。最後の1ページを繰るのがもったいない、大沢エンタメ史上ぶっちぎりのサスペンス巨編です。

──『俺はエージェント』担当者より
  

俺はエージェント

『俺はエージェント』
大沢在昌

第8回「上流階級 富久丸百貨店外商部 其の三」高殿 円
2020年啓文堂書店小説大賞の候補に『きみはだれかのどうでもいい人』(伊藤朱里著)が選ばれました!