文学的「今日は何の日?」【1/4~1/10】

恐怖の名作小説が世に出た日。
懐かしい客が訪ねてきた日。
日本一有名な猫の失恋記念日。
……そう、毎日が何かの記念日です。さて、今日は何の日でしょうか。
仕事始の1月4日から始まる1週間を見てみましょう。

1月4日

根所蜜三郎がスーパー・マーケット前に集まる人々を見かける――大江健三郎『万延元年のフットボール』

日本が誇るノーベル賞作家・大江健三郎の代表作とされる『万延元年のフットボール』は、幕末から安保闘争に至る日本の100年を歴史的・思想史的に捉えなおした作品です。東京の大学教師・根所蜜三郎と、学生運動から転向してアメリカに渡り放浪生活をしてきた弟・鷹四。都会の生活で挫折しかけている2人は、故郷である四国の谷間の村を訪れました。立ち直りのきっかけをつかむことと、故郷の家の倉屋敷を「天皇」と呼ばれるスーパー・マーケット・チェーンのオーナーに売却するのが目的です。1月4日の朝、積もった雪の中を郵便局に向かった蜜三郎は、元日以来、休業しているスーパー・マーケットの前に数人の女性がいるのを見かけます。いったい何を待っているというのでしょうか。


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1月5日

恐怖に満ちた二重人格の物語『ジキル博士とハイド氏』刊行

1886年1月5日ロバート・ルイス・スティーブンソンの小説『ジキル博士とハイド氏』がロンドンのロングマンズ・グリーン社から刊行されました。医者であり、高潔な紳士として知られるジキル博士と、醜悪な容貌の怪人ハイド。およそ釣り合わない二人がなぜ一緒に暮らしているのか。ジキルが語った「いつでもハイドを追い払うことができる」という言葉の真意とは? 二重人格を扱った怪奇小説として世に大きな衝撃を与えたこの物語は、これまでに何度も舞台化・映像化されたほか、『ドラえもん』の小道具など、マンガ作品にも大きな影響を与えています。


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1月6日

保険外交員女性の殺害死体遺棄事件で土木作業員が逮捕される――吉田修一『悪人』

吉田修一のサスペンス小説『悪人』は、福岡県と佐賀県の間にある三瀬峠の描写から始まります。心霊スポットとしても知られる、さびしい場所です。2001年12月10日の朝、ここで保険外交員・石橋佳乃の絞殺死体が発見され、およそ1月後の1月6日、土木作業員の清水祐一が容疑者として逮捕されました。佳乃は出会い系サイトで知り合った複数の男たちと関係があり、祐一もそのひとりだったのです。事件が起きた日、約束していた金を返したいと佳乃を呼び出し、博多の公園で落ち合った祐一。いったいなぜ、佳乃を手にかけることになったのでしょうか。第61回毎日出版文化賞と第34回大佛次郎賞を受賞し、妻夫木聡の主演で映画化もされた人気作です。


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1月7日

七草粥が招いた懐かしい客人の正体とは――赤江瀑「階段の下の暗がり」

本日1月7日は五節句のひとつ、人日じんじつの節句。七草粥を食べて無病息災を願い、翌日には松飾りを外します。23年の時を経て、同じ1月7日に起きるささやかな別れと出会いを描いた小品が、赤江瀑「階段の下の暗がり」(『月迷宮』所収)。エレベーターもない、古びたビルの3階にある華子の酒場に、最近隣に入った店のママ胡桃が酒に酔い、「この店のママが幽霊を飼っている!」と怒鳴り込んできますが……。勝ち気で喧嘩っ早い、けれどもどこか温かくてたくましい女性たちの物語です。


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1月8日

日本人漂着民デンベイがロシア皇帝ピュートル1世に拝謁

井上靖『おろしや国酔夢譚』は、1783年ロシアに漂着した大黒屋光太夫ら神昌丸乗組員の運命を描く歴史小説です。しかし、光太夫らの前にもロシアに漂着した日本人がいました。ロシア側の記録によれば光太夫らは5例目にあたります。もっとも古い記録は、大坂出身のデンベイ。千島アイヌに捕らえられていたデンベイは、ロシアの軍人アトラソフによってヤクーツクに連行され、1702年1月8日にはモスクワ郊外でロシア皇帝ピョートル1世に拝謁しました。日本に関心を抱いた皇帝は国費によるデンベイの生活保証を行ったほか、日本語学校を開設し、デンベイを教師として迎えるのでした。


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1月9日

三原山の火口で21歳の女学生が同級生立ち合いのもと投身自殺

昭和7年1月9日、実践女学校の生徒が同級生立会いのもと三原山の火口に身を投げて自殺するという、衝撃的な事件が起きました。さらに翌月2月12日にも、同じ場所で同じ学生が立会って別の生徒が身を投げます。この事件をもとに、自殺者と自殺幇助者の軌跡を、悽絶な魂のドラマとして描きあげたのが、高橋たか子『誘惑者』です。高橋は女生徒たちを自身と同じ京都の学生として書きました。同志社女子専門学校時代からの友人同士だった3人の若い女性が、自殺者と自殺幇助者となって三原山の火口に向かう……。生きていることに倦んだ高学歴の女学生たちの心理を精緻に描き、第4回泉鏡花賞を受賞した、高橋たか子の代表作です。


出典:https://www.shogakukan.co.jp/books/09352365

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1月10日

猫の〈吾輩〉、隣家の三毛子が亡くなったことを知る――夏目漱石『吾輩は猫である』

文明中学校の英語教師・珍野苦沙弥先生の家で暮らす猫の〈吾輩〉の目を通して、人間社会を風刺的に描き、夏目漱石の名を一躍有名にしたデビュー作『吾輩は猫である』1月10日、〈吾輩〉は隣の二弦琴の御師匠さん宅で飼われている美貌の雌猫・三毛子を訪ねました。数日前にも来たのですが、三毛子は風邪を引いたのか具合が悪く、会うことができなかったのです。この日も三毛子の姿は見えません。縁側に上がってうたた寝をしていると、障子の内で御師匠さんが下女と話す声が聞こえ、三毛子が亡くなったことを知ります。新年早々の失恋に沈む〈吾輩〉。外出する気もなくし、世間がものうく感ぜられるのでした。


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初出:P+D MAGAZINE(2021/01/04)

【著者インタビュー】原田曜平『Z世代 若者はなぜインスタ・TikTokにハマるのか?』/これからの消費の主役となる世代の嗜好を徹底分析!
◎編集者コラム◎ 『俺はエージェント』大沢在昌