◎編集者コラム◎ 『増補版 九十歳。何がめでたい』佐藤愛子

◎編集者コラム◎

『増補版 九十歳。何がめでたい』佐藤愛子


〈「九十歳。何がめでたい」を単行本にして賣り出してくれた小学館のKさんは、はじめの頃は言葉少なな控えめな人だった。それが本が増刷されるにつれて次第に元気が溢れて男っぷりが上ってきた。/「三万増刷です」「四万増刷です」と報告してくる声が躍動している。〉

 これは、『増補版 九十歳何がめでたい』に新たに収録したエッセイ「大声という病」の一節です。2016年8月に発売した単行本は、佐藤先生が書くように増刷に増刷を重ね、2017年の年間ベストセラー総合第1位、つまり2017年に日本でいちばん売れた本になりました(トーハン・日販調べ)。編集部には、「ゲラゲラ笑い転げてしまった」(11歳・女性)、「愛子先生は最高の人生の師!」(59歳・男性)、「元気をいただきました!」(85歳・女性)など、これまで2万通を超える感動・驚嘆・感涙の声が届いています。

 冒頭の一編は、そんな単行本発売後の<怒濤狂瀾>の日々を綴ったものですが、今回、『九十歳。何がめでたい』を文庫化するに当たって考えたのは、単行本を購入してくださった方にも喜んでもらえる本にしたいということでした。

 エッセイのほか、今回新たに加えた50ページ超の単行本未収録の内容は以下の通りです。


◎「最後の小説」となっている『晩鐘』刊行時のインタビュー。

→これは私が佐藤先生に初めてお目にかかった、個人的にもとても思い出深いものです。先生はインタビューで「書くべきことは書きつくして、もう空っぽになりました。作家としての私は、これで幕が下りたんです」と作家引退を表明されました。しかし、そう語る先生のお話は空っぽどころか、湧き出るように面白いエピソードが次々と飛び出すものですから、私はすぐに「女性セブン」でのエッセイ連載をお願いし、紆余曲折を経て「九十歳。何がめでたい」の連載が始まった……という経緯があります。

◎旭日小受章を受章された際の記者会見。
→旭日小受章受章が決まると、新聞各社やテレビ局から佐藤先生にお話を伺いたいという依頼が殺到しました。とはいえ個別に受けて頂くのは到底無理なので、記者会見を開催することになりました。どういうお気持ちで作家を続けてきたか、90歳を過ぎてベストセラーとなった『九十歳。何がめでたい』についてどう思うか等々、記者からの矢継ぎ早の質問に対して佐藤先生がユーモアたっぷりに答えたやり取りをほぼ全て掲載しています。

◎女優・冨士眞奈美さんとの対談。
→『九十歳。何がめでたい』に収録されている一編「グチャグチャ飯」のことから、旭日小受章の伝達式当日のドタバタ裏話、そして独り身の自由な日常についてまで、お付き合いがもう数十年に及ぶというお二人だからこその率直なやり取りが楽しい対談になっています。

◎瀬戸内寂聴さんの解説。
→瀬戸内先生は佐藤先生より年齢が1つ上。同じ時代をともに作家として生きてきた「同志」のような存在のお二人です。瀬戸内先生が佐藤先生のことを「愛子さん」と呼ぶ私信のような解説を読むたびに、心が熱くなります。最終ページにはお二人の貴重なツーショットも掲載しています。撮影したのは佐藤先生の孫、桃子さんです。

 
 最後にお知らせをひとつ。『増補版 九十歳。何がめでたい』と同時に、続編となる単行本『九十八歳。戦いやまず日は暮れず』を刊行しました。『九十歳。何がめでたい』がバカ売れし、のんびりするどころか怒濤狂瀾の日々が訪れた先にあったのは――。直木賞受賞作『戦いすんで日が暮れて』から52年、佐藤先生がヘトヘトの果でしぼり出した最新&最後のエッセイ集はやっぱりゲラゲラ笑えて勇気と元気をもらえます。ぜひあわせてお読みください。

──『増補版 九十歳。何がめでたい』担当者より

増補版 九十歳。何がめでたい

増補版 九十歳。何がめでたい』
佐藤愛子

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