◎編集者コラム◎ 『羊の頭』アンドレアス・フェーア 訳/酒寄進一
◎編集者コラム◎
『羊の頭』アンドレアス・フェーア 訳/酒寄進一
うらすじ、ご存じですか。
「本の雑誌」2020年2月号の特集〝「うらすじ」の謎と真実!〟から引用すると〈文庫の表四(裏表紙)に載っているあらすじ紹介のこと〉です。「タモリ倶楽部」でも「文庫の裏にあらすじあり!!ウラスジ大読書会」という回があったとか。
このあらすじを参考に本を選ぶ方も多いので、限られた文字数でその本の魅力を伝えることに心血を注ぐのは編集者の仕事のひとつでもあるのですが、うまくまとまらないこともしばしばです。そんなとき私は、冒頭の「本の雑誌」を紐解き、諸先輩方の名文と書き方のツボを読み返しています。何度読みかしても、気づくことや励まされることがあって、私のバイブルと言ってもよいです。
この特集によると、1行の文字数は決まっていても行数は自由であったり、2行の見出しがついていたりと文庫のレーベルによって形式はさまざま。小学館文庫のあらすじは260字で、最も多いほうだということもわかります。
なぜこんなことを書いているかというと、本作『羊の頭』は、あらすじを書くのにとても苦心したからです。
南ドイツの人気作家アンドレアス・フェーアがドイツ推理作家協会賞(フリードリヒ・グラウザー賞)新人賞を受賞した『咆哮』のヴァルナー&クロイトナーシリーズ第2弾と言えば、面白さとリーダビリティの高さは伝わるでしょうか。でも、それだけで260字は埋まりませんし、どんなお話かは伝わりません。
『羊の頭』は原題 Schafkopf を直訳したもので、バイエルン地方の伝統的なカードゲームの名前。物語の中では、人生に倦んだ人々の吹き溜まりのような酒場で男たちが行う賭け事です。
仲間うちの一人が、ハイキングの名所・リーダーシュタイン山の山頂で頭部を撃ち抜かれて死亡。かなりのDV男であった被害者は、2年前に失踪した恋人を探していた。ひとりの弁護士がその行方を知っているというが、彼にもお金にまつわるきな臭い過去がある。描かれるのは、行き場のない人々の胸の詰まるような日々でもあります。しかし、現在と過去を行き来しながら事件の背景が明かされていく展開はとてもスリリングで、ページターナーぶりは第1弾に引けを取りません。
……と、260字で書き切れなかったことの言い訳にここで長めの内容紹介を!とこのコラムを書き始めたのですが、この複雑な物語、やはり本編を読んでいただくのが一番だと思い至りました!
書店で手に取ってくださったときには、ぜひ「うらすじ」も読んでみてください。
──『羊の頭』担当者より
『羊の頭』
アンドレアス・フェーア 訳/酒寄進一