◎編集者コラム◎ 『咆哮』アンドレアス・フェーア 訳/酒寄進一

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『咆哮』アンドレアス・フェーア 訳/酒寄進一


咆哮
デザインを手掛けてくださったアルビレオさんが、「これしかない!」と思ったというカバー写真。帯を外して見てみてください(奥は原書です)。

 ネレ・ノイハウスやフェルディナント・フォン・シーラッハ、フォルカー・クッチャーなど人気作家が目白押し、日本でも注目度の高いドイツミステリですが、本書の著者、アンドレアス・フェーアはご存じでしょうか。 

 ドイツ・バイエルン州のテレビ局で法律関係の仕事をしながらミステリ・ドラマの脚本家として活躍し、その後小説を書き始め、デビュー作でフリードリヒ・グラウザー賞(ドイツ推理作家協会賞)新人賞を受賞した実力派です。

 その新人賞受賞作が、本作『咆哮』(原題:Der Prinzessinnenmörder)なのです。フェーア作品は、日本でもすでに「弁護士アイゼンベルク」シリーズ(創元文庫)が刊行されていますが、本国ドイツで2009年に刊行されていた本作が邦訳されていなかったとは驚きでした。だって、とっても面白かったから……。

 物語の舞台は、ドイツ南部のミースバッハ郡。雪の降り積もる山々に囲まれた町の湖で、氷の下から16歳の少女の死体が発見されたことが事件の始まりです。地元署に特別捜査班が立ち上がり、捜査が進められるなか悲劇は続きます。二人目の少女の死体が発見されるのです(とても意外な場所から!)。二人に共通するのは、金襴緞子のドレスを着せられていることと、口の中に数字入りのバッジが隠されていたこと。

 最初の死体の第一発見者であるクロイトナー上級巡査は、犯人を逮捕して手柄を立てたいと躍起になりますが、実際には、地元署に特別捜査班が立ち上がり、ヴァルナー首席警部の指示でしか動けません。事件はさらに続くのか? 犯人は誰? その目的は? 怒涛の展開にぐいぐい引き込まれ、ラストまで一気に読みました。

 原題を直訳すると「プリンセス殺し」ですが、日本では『咆哮』というタイトルで刊行します。ガラッと雰囲気が変わりますが、読後にその意味がじんわりと胸に響くのでは……と思っています。

 本作を読むまで、南ドイツの風土や文化に触れることがほとんどありませんでした。物語に登場するホットワインやビールやソーセージや焼き菓子などとても興味を引きますし、雪景色の町は季節によって風景を変え、豊かな自然を楽しめそうです。訪れたことのある上司に訊いてみたところ、オーストリアやイタリアにも近い南ドイツは、食文化が豊かで風光明媚なところなのだとか。コロナ禍のいま訪ねることは難しいけれど、ドイツの小説を読むことでその文化を楽しむのもよいですね。

 ちなみに、本作では絡みの少ないヴァルナー刑事とクロイトナー巡査ですが、ドイツでは「ヴァルナー&クロイトナー」シリーズとして、すでに8作が刊行されているそうです。どんなコンビになっているのか、続きも気になりますね!

──『咆哮』担当者より
  

咆哮

『咆哮』
アンドレアス・フェーア
訳/酒寄進一

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