◎編集者コラム◎ 『急斜面』アンドレアス・フェーア 訳/酒寄進一
◎編集者コラム◎
『急斜面』アンドレアス・フェーア 訳/酒寄進一
〈ヴァルナー&クロイトナー〉シリーズ第4作、『急斜面』が刊行されました! ドイツ推理作家協会賞(フリードリヒ・グラウザー賞)新人賞を受賞したデビュー作『咆哮』から続く、警察小説の注目作です。
舞台は南ドイツ。ミースバッハ警察署の敏腕警部ヴァルナーと、なぜこの人が警察官なの……? という疑問が常につきまとう問題児クロイトナー巡査が難事件の捜査にあたります。
本シリーズの大きな読みどころは、衝撃的な事件とスリリングな捜査展開です。ミステリ・ドラマの脚本家という著者のキャリアを感じさせ、♪akiraさんの解説から引かせていただくと「さらにこれだけでもじゅうぶん面白いのにまだやるか! と言いたくなるほど次から次へとさまざまな要素が惜しみなく盛りこまれていて、読者を楽しませようという作者の意気込みが感じられるエンタメ・ミステリ」なのです。
第1作『咆哮』では、凍った湖の氷の下から遺体が発見され、第2作『羊の頭』では、ついさっきまで話していた人の頭が銃で吹き飛ばされ、第3作『聖週間』では有名女優の娘がクリスマスの朝に遺体となって発見されました。第4作となる本作はなんと、ベンチに座る「雪だるま」の中から遺体が……。日本で作られる「雪だるま」は、二頭身の可愛らしいフォルムをしていますが、ヨーロッパの雪だるま=Snow man。頭身はより人間に近く、雪に埋もれていたら、不気味に見えますよね……きっと。
夜の闇が迫るスキー場の上級者コースを滑っていたはずが、悪天候でゲレンデを外れた末にこの遺体を見つけてしまったのはクロイトナー巡査。彼がこのヴァルベルク山に登っていた理由が、おじの遺灰を撒くため(違法行為)というから驚きです。でも、本作はクロイトナーの青年時代や家庭環境が語られ、私たち読者はその意外な一面を知ることになります。
『咆哮』の編集者コラムで、ヴァルナーとの絡みが少ないので次作以降に期待していると書きましたし、『聖週間』では、ようやく絡み始めたと書きましたが、本作はその気持ちにたっぷり応えてくれます。それぞれに歩んできた道があって家族がいて、今があるという背景が見えてくるのです。シリーズがより面白くなるのはこれからではないでしょうか。
訳者の酒寄進一さんによると、第5作はクロイトナーが警察官になる前の物語とのこと。続きが気になるのはわたしだけではないはず。ぜひみなさんの感想をお聞かせください。よろしくお願いいたします!
──『急斜面』担当者より
『急斜面』
アンドレアス・フェーア 訳/酒寄進一