◎編集者コラム◎ 『ムショぼけ』沖田臥竜
◎編集者コラム◎
『ムショぼけ』沖田臥竜
連ドラの撮影はすべて著者の沖田臥竜さんの地元・兵庫県尼崎市の周辺で行われた。
小説の出版前に、連続ドラマ化が決定し、すでに撮影も終了するというイレギュラーな進行だった。小説の構想からたった1年で、地上波のドラマが放送されるなんて、前代未聞だ。そのスピード感を実現したのは、作品が持つ力と、沖田さんの情熱にほかならない。
東京から撮影スタッフが尼崎に入ったのは今年5月。
折しも、コロナ第4波の真っただ中。「撮影は中止か……」。テレビのスタッフが頭を抱えるなか、先頭に立ったのが沖田さんだった。
地元の病院に感染防止徹底の指導を仰ぎ、もし体調不良者が出たら、すぐに検査、隔離・入院ができる体制をつくった。ホテルから現場への移動は大型バスではなく、個別の車にした。沖田さんの地元の仲間たちが出演者の移動車を何台もそろえた。撮影の朝は早い。沖田さん自身も朝5時からハンドルを握って、送迎をした。尼崎の市長も撮影現場に激励に訪れた。出演者もスタッフも、それにはホッとした。
6月22日、撮影がオールアップ。
主演の北村有起哉さんの、ラストシーンの演技が終わると、歓声に包まれた。
コロナ禍だから、スタッフの数も最小限で、編集作業を含めると、ほぼみんな徹夜だったようだ。「こんなに過酷なロケは初めてだった」と北村さんは唸った。
打ち上げの輪のなかに、原作本の編集担当の私も加えていただいた。
沖田さんのスピーチが印象的だった。
「渡世にいたときから、自分は小説家になるんや、それが映画やドラマになって、世間を感動させるんやと言ってきた。アホかと言われました。もう夢みたいなこというのはやめぇ、と言ってくるやつもぎょうさんおった。でも、たったひとり、自分だけが信じてた。そりゃまぁ、必死にやってきましたし、いろんなことがあったけど、やっとここまでこられた。悪くないな、と思います」
この小説には、おそらく、沖田さん本人が歩んできた道も、近からず遠からず、描かれている。作家が「生き様」を伝えた作品――小説もドラマも一緒にお楽しみください。
──『ムショぼけ』担当者より
『ムショぼけ』
沖田臥竜