◎編集者コラム◎ 『モーツァルトを聴く人』詩/谷川俊太郎 絵/堀内誠一
◎編集者コラム◎
『モーツァルトを聴く人』詩/谷川俊太郎 絵/堀内誠一
『モーツァルトを聴く人』という詩集の親本が小学館から刊行されたのは1995年、谷川さん64歳の時の詩集でした。19篇の詩のほかにパウル・クレーのカットが6点収録されていて、造本はA5判ハードカバー64ページの瀟洒な詩集。この詩集には単行本の他に別のとんでもないヴァージョンもあったのです。それは本の他にCDもついた函入りの豪華セット(単行本単体は定価1200円、CD付は3700円でした)。そのCDにはモーツァルトの音楽の他に著者による自作朗読も12篇! 今はもう手に入らないのが残念ですが(写真だけでもご覧下さい)。
今回同じタイトルで文庫化するにあたり、Ⅰ章は親本収録の19篇、Ⅲ章に、モーツァルトと音楽をめぐる選詩集として新たに24篇を加えました。これらの詩篇は、古くは、1961~64年頃に書かれた「モーツァルトの昼」から2020年の「今此処の私のために」、そして本書のための書き下ろし「急がないモーツァルト」まで、谷川さん30代初めから89歳までの作品が一望できます。書き下ろし1篇以外は、編集部が14冊の詩集や単行本から選んだものです。
さらに特筆すべきは、第Ⅱ章として名コンビ堀内誠一さんとの共作絵本「ピアノのすきな王さま」をカラーで収録できたことでした。この絵本は、ヤマハのPR用小冊子「ピアノ小読本」(1981年)に発表されただけで未刊行だった絵本です(しかも今回は改めて原画を基にカラーで収録)。そして、谷川さんの詩と共に堀内さんの洒落たカットもお楽しみください。カバーに使ったモーツァルトの美しい肖像も、もちろん堀内さんの作品です!
谷川さんは、「あとがき」の中でこう語っています。
モーツァルトの数小節に匹敵する詩が書きたいと、私はずっと夢見ているのだが、この文庫に集められた詩を読み返してみると、言葉で音楽に触れることのできた瞬間が、いくつかはあったような気がする。直接音楽に、あるいはモーツァルトに触れたのではない。むしろ離れたところから偶然のように触れたのだと言ったほうがいいかもしれない。ここ数年ヘッドホンで音楽を聴くようになっている。耳が遠くなったわけではない。ただもっと言葉に近づきたいと、カラダがそしてココロが望んでいるのだ。
モーツァルトの音楽を聴きながら詩を読む――至福の時間を約束する「小さな宝石のような」絵本入り詩集です。
──『モーツァルトを聴く人』担当者より
『モーツァルトを聴く人』
詩/谷川俊太郎 絵/堀内誠一