◎編集者コラム◎ 『完璧な家族』リサ・ガードナー 訳/満園真木

◎編集者コラム◎

『完璧な家族』リサ・ガードナー 訳/満園真木


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 かつて誘拐され、472日間、そのほとんどの時間を真っ暗な棺桶大の箱に監禁、怪物のような男に蹂躙され続けた過去を持つ女性フローラ・デイン――アメリカの大人気作家によるスリラー「女刑事D・D・ウォレンシリーズ」長篇9作目『棺の女』のヒロインです。シリーズの途中作にもかかわらず大きな反響を頂くことができたのは、単独作としても問題無く読める構成、「NYタイムズベストセラーリストの常連シリーズ」なのも頷けるエンタメ性の高さ、加えてスタイリッシュでキレキレな満園真木さんによる翻訳もさることながら、Wヒロインの一人・フローラ(ちなみにもう一人のヒロインは、ボストン市警の凄腕刑事D・D・ウォレン)の、「凶悪事件生還者(サバイバー)の地獄」を体現したようなキャラクターが、あまりにリアルで強烈だったからではないでしょうか。

 私たちは事件が解決し被害者が無事に保護されたというニュースに触れると、「よかったよかった」で終わらせてしまいがちですが、生還者の本当の苦しみはここから始まると教えてくれたのが、『棺の女』のフローラでした。トラウマなんて言葉では表せないほどの絶望を抱え、その絶望故に、わが身を痛めつけながら同じ立場の被害者を救いだそうとする彼女の姿は、単なる小説のキャラクターを超えるインパクトがありました。
 そんなフローラが、本作『完璧な家族』で再び帰ってきます。今度は、超ワーカホリック刑事のD・Dの片腕として。

 ある朝、平穏な家族を襲った銃撃事件。次女と長男、母親とその恋人が殺され、16歳の長女は二匹の飼い犬とともに行方不明に。捜査を指揮するD・D。フローラは、長女とある繋がりがあった。二人はそれぞれのやり方で、やがて協力して長女を捜すことに。そしてわかってきたのは、この家の子どもたちの壮絶な過去――。
 ここから先は本編を読んでいただくとして、少し補足の説明を。この『完璧な家族』は『棺の女』の続編で、さらに今年4月には、その続編『噤(つぐ)みの家』を刊行します。(ちなみに『棺の女』の前作にあたる『無痛の子』も好評発売中、こちらはフローラ登場前のまた別の事件のお話。胸を打つ感動作です!)先ほど触れたようにどれも単独作として楽しめる内容ですが、担当者としてはぜひとも、『棺の女』からの3作は順を追って読んでいただきたい。なぜなら、この壮絶な生還者・フローラの「心の旅」のようなものが続けて描かれるからです。

 このシリーズには、フローラの他にも深い傷を負った女性たち、少女たちが登場します。理不尽な運命や唾棄すべき暴力に絶望しながらも、必死に抗い立ち上がろうとする彼女たちの姿は、きっと読者のあなたの心を揺さぶり温かな何かをもたらすはず。シスターフッドものが好きな方には特に、自信を持ってお薦めしたい。
 米ミステリの女王カリン・スローターや巨匠ハーラン・コーベンも激賞する傑作シリーズです。ぜひ、お読みいただければ幸いです。

──『完璧な家族』担当者より

完璧な家族

『完璧な家族』
リサ・ガードナー 訳/満園真木

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