◎編集者コラム◎ 『うかれ堂騒動記 恋のかわら版』吉森大祐
◎編集者コラム◎
『うかれ堂騒動記 恋のかわら版』吉森大祐
このたび、小学館時代小説文庫に初登場くださった吉森大祐先生は、新進気鋭の作家さん。
『幕末ダウンタウン』で第十二回小説現代長編新人賞を、『ぴりりと可楽!』で第三回細谷正充賞を受賞された実力派でもあります。
もはや面白さが確定しているといってもよい、吉森先生の最新作は、なんと初の文庫書き下ろし!
いやが上にも期待が高まってしまう本書ですが、これまでの作風がよりパワーアップ、腹を抱える笑いあり、袖を拭う涙ありで、往年のテレビ時代劇を彷彿させる内容となっています。
登場するキャラクターはみんな味がありますが、もちろん一味違うのが我らがヒロイン、かわら版屋の元気ハツラツ娘、一穂ちゃん。
恋よりウナギに無我夢中な、色気より食い気が大分勝っている十七歳の女の子ですが、あまりにお転婆すぎて、関わった事件をかき回しては珍事件に変えてしまうという、自分自身がネタそのものといってよいほどの、嵐を呼ぶ体質だったりします。なにしろ、自分の花嫁修業すら、ネタになってしまうくらいですから。
そんな体質なのに奉行所は、かわら版屋は情報収集に持って来いとばかりに、一穂に探索を手伝わせたりするものだから、与力も同心も自業自得ながら頭が痛い。
さらにそこへ一穂が住んでいる長屋のおとぼけ連中も加わって、大騒動珍騒動に発展してしまうので、まったく始末に負えないハチャメチャぶり。
とはいえ、ほんわか、じんわりする一幕も織り込んであるのは、さすが新進気鋭実力派の吉森先生。
ある事情があって、一穂と一緒に暮らしている、かわら版屋を営む実のおじさん・市右衛門が大層がさつそうに見えて、実は意外に気配り屋なので、時おり見せるハートフルな思いやりに、ホロホロと涙が流れます。
そして、町奉行所の定町廻り同心・吉田主計の存在にご注目。一穂の幼馴染でもあるので、ひょっとしたらひょっとします。
読んで満足する、抱腹絶倒、落涙必死の本書をぜひお楽しみください。
──『うかれ堂騒動記 恋のかわら版』担当者より
『うかれ堂騒動記 恋のかわら版』
吉森大祐