◎編集者コラム◎ 『つけびの村 山口連続殺人放火事件を追う』高橋ユキ

◎編集者コラム◎

『つけびの村 山口連続殺人放火事件を追う』高橋ユキ


つけ火写真

 今から10年前、山口県の集落で起きた連続殺人放火事件の真相に迫る『つけびの村』は、2019年に刊行され、事件ノンフィクションとしては異例のベストセラーになりました。同作はもともと、『週刊ポスト』で記者として活動していたライターの高橋ユキさんが小学館ノンフィクション大賞に応募した原稿がもとになっています。しかし、結果は惜しくも落選。発表する場がなくなり困っていた高橋さんから、「なんとか発表する方法を模索したいので、『note』に投稿してもいいですか?」そう相談された時の悲痛な表情は、今も忘れられません。

 そうした経緯を経て「note」に投稿したところ大反響となり、高橋さんの元には出版のオファーが相次ぐことに。最終的には晶文社から単行本化されることになりました。『週刊ポスト』時代から担当編集として長年携わってきた立場としては、高橋さんの活躍が嬉しい半面、自分が単行本を手がけられなかったことには忸怩たる思いがありました。

 このたび、事件から10年という節目に、小学館で文庫化することになり、もう一度担当編集として携わることができたのは、感慨深いものでした。高橋さんは月日が経った事件現場にもう一度足を踏み入れ、「つけびの村」の今を取材しました。

〈早く事件を忘れたい・世間に事件を忘れてほしい、と思っている地元の人にとっては、出版は嫌な出来事だっただろうという自覚はあった〉(「文庫版に寄せて」より)という高橋さんのことを、意外なことに地元の人たちは温かく受け入れる。そこで見た光景は、〝地元にUターンして来た男が村八分になり、復讐のために犯行に至った〟というネット上にはびこる噂の村とは全く異なるものでした。

 事件で朽ち果てると思われた集落で、それでもどっこい、人々は力強く生きようとしていた。それは単行本で描かれた「つけびの村」とも違う、新たな視点。ノンフィクションは、世の中が勝手に抱くイメージや俗説を常に覆していくものだと、高橋さんの文章を教えてくれるようです。

──『つけびの村 山口連続殺人放火事件を追う』担当者より

つけびの村 山口連続殺人放火事件を追う

『つけびの村 山口連続殺人放火事件を追う
高橋ユキ

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