◎編集者コラム◎ 『土下座奉行』伊藤尋也

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『土下座奉行』伊藤尋也


『土下座奉行』写真
西山竜平先生の描く北町奉行。「これぞ土下座!」というべき、華麗なる土下座です!

 2021年10月に発売された『孫むすめ捕物帳 かざり飴』で、時代小説界に殴り込みをかけ、話題を引っさらった伊藤尋也先生が放つ第二弾です。

 前作では、老同心のお手伝いをする孫娘ちゃんふたりを、ほのぼの冷や冷やと描いて、多くのおじいちゃんおばあちゃんの目尻を下げさせたのは、記憶に新しいところ。

 最新作もうらうらドキドキだろうと思いきや、意外や意外、『土下座奉行』というタイトル通り、すべての難題を土下座ひとつで見事に解決する北町奉行が八面六臂の大活躍するお話でした。

 栄えある土下座奉行に選ばれたのは、牧野駿河守成綱という歴史上実在した人物。

 そして、土下座相手には、歴史時代小説ではもはやレギュラーともいえる、お馴染みのメンバー──南町奉行・遠山左衛門尉景元(遠山の金さんですね)、元老中・水野越前守忠邦、老中・阿部伊勢守正弘たちです。

 彼らは牧野の土下座相手ではありますが、実は敵。というより、三つ巴の関係みたいなもの。

 江戸城内での水野派と阿部派の派閥争いに絡む、あちらを立てればこちらが立たないという難事件を、牧野が土下座であちらも立ててこちらも立てるという離れ業(離れ土下座?)をやってのけます。

 なにしろ、牧野が放つ土下座がただの土下座ではないのです。いくつもの種類があって、まさか極意まであるなんて……。

 物語は主人公の若手同心・小野寺重吾の目線で進むのですが、「忠臣蔵」の昼行灯・大石内蔵助を彷彿させる牧野の魅力に、ずっと目が釘付けになること請け合い。

 もちろん、重吾の格好よさ、真っ直ぐさにも惹かれます。特に後半に披露される剣戟シーンは東映時代劇を想い起すのではないでしょうか。重吾が披露する必殺剣を、ぜひお楽しみください。

 それにしても、土下座って、本当に奥深いものだったのですね。

──『土下座奉行』担当者より

土下座奉行

『土下座奉行』
伊藤尋也

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