◎編集者コラム◎ 『ヴァイタル・サイン』南杏子
◎編集者コラム◎
『ヴァイタル・サイン』南杏子
人として許されないことに手を出してしまう瞬間の心理を想像することは、普通に生きているととても難しい。話しを直接聞いたとしても、理解ができなかったりする。でも、小説を読むとそれが手に取るようにわかり、理解でき、もしかしたらこの人は私だったかもしれないとすら感じられてくる。小説ってすごい、と感じます。
この作品の主人公で看護師の堤素野子は、ちょっとした判断ミスや時間の遅れが人の生死を分けてしまう過酷な職場で、十分に休む時間もなく、来る日も来る日も働き続けています。
十人いれば十通りに異なる患者さんの要望にいかに素早く的確に応えるか。患者さんの体調が悪いとき、疲れてイライラしている医師にどう伝えるべきか、そもそも伝えるべきなのか。新人や素行の悪い後輩の目に余る行為をどうしたら止められるのか。患者さんの笑顔が見たくて医療現場で働き始めたはずなのに、疲れ果てなにも考えられなくなった脳は、やがて信じ難い方向へと思考を進めてしまいます……。
南杏子さんは、ご自身も医師としてお仕事をされています。以前、取材のために職場を訪れたことがあります。白衣を着て現れた南さんの凜とした瞳には、現場の艱難辛苦をすべて受け入れた上で、患者さんのために尽くしていくのだという覚悟が宿っているように感じられ、そんな大変なお仕事の合間に書かれる小説を、今後も身近で読むことができることを改めて光栄に感じました。
解説は、医師で作家の久坂部羊さんが書いてくださいました。南さんの過去作『ディア・ペイシェント』がドラマ化した際に主演を務めた女優の貫地谷しほりさん、同じく医師であり作家でもある夏川草介さん、中山祐次郎さん、大塚篤司さんも、熱いコメントを寄せてくださり、引き続き応援してくださっています。
病院の裏側で、どんな人間ドラマが繰り広げられているのか。綺麗事だけではないリアルな物語に、ぜひご注目ください。
──『ヴァイタル・サイン』担当者より