◎編集者コラム◎ 『活字のサーカス 上』『活字のサーカス 下』椎名誠

◎編集者コラム◎

『活字のサーカス 上』『活字のサーカス 下』椎名誠


『活字のサーカス』写真1

「いつか文庫化してもらいたい本があるんだよ。よかったら一回読んでほしい」

 シーナさんからそういう話を聞いたのはいつのことだったか、ハッキリとは覚えていない。ただその時に読んだその本の印象はあまりにも鮮烈で、面白い本に時代なんて関係ないんだなという幸せな読後感のようなものはハッキリと覚えている。『活字のサーカス』という1987年に刊行された岩波新書だった。

 その後も『活字博物誌』『活字の海に寝ころんで』『活字たんけん隊』と全4冊が刊行された「活字シリーズ」は、<岩波新書が変わった! と大反響を呼んだ>という(『活字たんけん隊』より)。確かに旅に出る時にどんな本を持っていくかという「カバンの底の黄金本」から始まり、著者の圧倒的好奇心とでかでかとした妄想世界が展開される「本」にまつわるエッセイの数々は傑作ぞろい。それは目次を見て頂ければ一目瞭然なのでご覧あれ。

『活字のサーカス』写真2
『活字のサーカス』写真3

 どうですか! 今すぐ読みたくなったでしょう。この本できっとあなたも読書の魅力を再認識できるはず!!

 最後に我々の仲間のことを少しだけ。シーナさんを隊長とする「雑魚釣り隊」という軍団がいる。この隊が何をしてきたかについては、小学館文庫の雑魚釣り隊シリーズを読んで頂きたいのだが(とはいえ、特にすごいことは何もやっていない。それどころか、ただ酒を呑んでいるだけというのがほとんど)、その中にダイスケという仲間がいた。「いた」というのは、彼が死んでしまったからだ。まだ若いとても優秀な編集者だった。

 彼は『活字のサーカス』が大好きで、いつか文庫化したいという野望を持っていた。ただ時代やタイミングなどの関係でその夢は叶わなかった。編集作業を進めながらダイスケのことを思い出した。彼はあまり先輩の話は聞かず、「そっすねえ」と適当な相槌ばかりうつヤツだったけど、どのエッセイが好きか、出てくる本の中でどれを読んだか、酒を呑みながら話してみたかった。文庫になって彼も喜んでくれているはずだ。

──『活字のサーカス 上』
『活字のサーカス 下』担当者より

活字のサーカス 上

『活字のサーカス 上』
椎名誠

 

活字のサーカス 下

『活字のサーカス 下』
椎名誠

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