◎編集者コラム◎ 『人さらい』翔田寛
◎編集者コラム◎
『人さらい』翔田寛
「今〝誘拐作家〟と言えばこの人である」と宮部みゆきさんがコメントを寄せてくださった作品、それが本作『人さらい』です(引用:讀賣新聞2018年10月21日朝刊書評より)。翔田寛さんの誘拐ミステリは傑作揃いです。江戸川乱歩賞を受賞した『誘拐児』、大藪春彦賞候補となりWOWOWで連続ドラマ化された『真犯人』、そして本作『人さらい』。気鋭のミステリ作家である翔田さんの本領が発揮されるテーマ、それこそが「誘拐ミステリ」なのです。
「少女惨死、一億円消失。」
これが『人さらい』単行本刊行時のオビのキャッチでした。
ひ、ひどい話すぎる……と思った記憶があります(当時は私は担当編集ではなかったのです)。
でもそんな話です。そんな悲劇的な結末を迎えた誘拐事件の謎を、地道に執拗に追いかける静岡県警のひとり、日下悟警部補が本作の主人公です。
舞台は静岡県浜松市。少女が誘拐され、身代金の一億円が奪われ、そして、被害者少女は遺体で発見されます。身代金の運搬役に指名された母親は、《浜松まつり》で混雑する会場などをタクシーを乗り換えながら走り回らされ、最後には娘の遺体と対面させられます。少女を救うことも、犯人を逮捕することもできなかった静岡県警は、その威信にかけて捜査を進め、徐々に犯人へと迫っていくのです。現場へ足を運び、関係者へ聞き込みをし、着実に真相へ近づいていく――これぞ警察小説の醍醐味と言える、迫真の捜査小説になっています。
前述の『真犯人』、本作『人さらい』、そして8月28日に発売予定の単行本『二人の誘拐者』は、静岡県警の日下悟警部補を主人公とした三部作となっています。三部作とはいっても、「静岡県警」「誘拐事件」「日下悟警部補」という3つの要素が共通しているだけで事件は繋がっていませんので、それぞれ単独でお楽しみいただけます。作品ごとに年代も異なり、日下警部補の配属先も『真犯人』では裾野署、『人さらい』では浜松中央署、『二人の誘拐者』では静岡中央署と、静岡県内を転々としています。日下警部補は各地で凶悪な誘拐事件に直面しますので、まずは『人さらい』をお楽しみいただいてから、他の二作も手に取っていただけたら幸いです。
──『人さらい』担当者より