◎編集者コラム◎ 『ステイト・オブ・テラー』ヒラリー・クリントン ルイーズ・ペニー 訳/吉野弘人

◎編集者コラム◎

『ステイト・オブ・テラー』ヒラリー・クリントン ルイーズ・ペニー 訳/吉野弘人


『ステイト・オブ・テラー』写真

 いよいよ2か月後に迫ったアメリカ大統領選。6月28日のテレビ討論会を機に高齢のバイデン大統領に撤退の声が高まり、7月13日のトランプ氏銃撃事件から最高潮に達した「確トラ」ムード、からのバイデン→ハリス副大統領への交代劇で7月末から流れは一変、両者の支持率は拮抗し、今やトランプ人気をハリスへの期待が凌駕する勢いです。

 今から3か月前、こんなシナリオを誰が予想できたでしょうか。果たして結果はいかに。そしてそれによって世界はこの先どうなっていくのか。日本に暮らす私たちだって、決して心穏やかではいられません。そんな今だからこそ読んで頂きたいのが、第42代アメリカ合衆国ファーストレディであり、第67代米国国務長官を歴任したあのヒラリー・クリントンによる、リアル過ぎる国際政治スリラー『ステイト・オブ・テラー』です。

 原著が出版されたのは、トランプ政権が一期で終わりバイデン政権へと移行して間もない2021年秋。その前年からヒラリーが、親友であるカナダの国民的作家ルイーズ・ペニーとタッグを組んで執筆した話題作で、発売直後にはNYタイムズのベストセラーリスト1位に、その他多くのメディアのベストセラーリスト入りも果たしています。日本では翌2022年に邦訳版(吉野弘人訳)が出版、大統領選を目前についに文庫になりました!

 共和党から民主党に政権交代し、ウィリアムズ新大統領から国務長官に指名された大手メディア企業元経営者のエレン。彼女は予備選でウィリアムズのライバル候補者を応援した、新大統領にとってのいわば「政敵」。その自分を指名した大統領の意図を摑みきれないまま、それでもエレンは「前政権のほとんど犯罪的な無能ぶり」によって地に墜ちたアメリカの国際的信用を取り戻そうと奮起。しかしその矢先に、ロンドン、パリで連続バス爆破事件が発生。事件の直前、国務省南・中央アジア局職員のもとに奇妙なメールが届いていたことがわかり、エレンはそれが次の標的を示唆していることに気づき――

 この先はぜひ本作をお楽しみいただくとして、ここでは「担当編集が推す『ステイト・オブ・テラー』のとにかくスゴイ! ポイント」を3つご紹介したいと思います。

 ①とにかく「シンクロ感」がスゴイ!

 本作はフィクションであり登場人物も全員架空……とはいえ、実在のあの(、、)各国トップや元トップに寄せたキャラクターが登場します。主人公エレンはやはりヒラリー自身が投影されていると思われますが、それ以外にも「あ、これは……!」となる登場人物が続々。それぞれが人間臭く、現実とのシンクロ感が凄まじく、実際に彼らの間でこんなやりとりがあったのかも……? とつい想像してしまいます。

 ②とにかく「リアリティ」がスゴイ!

 元国務長官として国際政治の裏の裏まで知り尽くしたヒラリーだからこそ書ける、リアルな描写が満載。新国務長官と彼女を支える「チーム・エレン」が、内外の見えざる敵や各国のくせ者と渡り合うための作戦、緊迫感あふれる攻防など、「もしかしてこれ実話?」とどんどん想像が膨らみます。さらに細部の描写、例えば国務省内のマホガニー・ロウと呼ばれる廊下の様子から、ホワイトハウス前にある実在のホテルのバーのコースターにまつわるエピソードまで、ワシントンDCならではのディテールも楽しめます。

 ③とにかく「ページターナーぶり」がスゴイ!

 冒頭からすぐに惹き込まれる怒濤の展開ですが、あるカウントダウンが始まってからのギアチェンジの凄まじさたるや。これは名手ルイーズ・ペニーの力が大きいと言えるでしょう。ケベック州の小村を舞台にした「ガマシュ警部シリーズ」で数々の受賞歴を持つ、人気と実力を兼ね備えたベストセラー作家。政治スリラーは初挑戦ながら、このスピード感、ページターナーぶりはさすがです。フーダニットを描いたミステリーとしても一級品で、読者は最後の最後まで真犯人をめぐって「おまえか?」「え、こいつ……?」とドキドキしているうちに、768ページをあっという間に一気読みしてしまうこと、間違いなし!

 と、そんな魅力あふれる『ステイト・オブ・テラー』ですが、私がもっとも印象に残ったのは、ヒラリーがあとがきに記した「(この作品が)フィクションであり続けるかどうかはわたしたちにかかっている」という言葉です。大統領選を目前にした今ほど、この言葉が胸に刺さる時はありません。

 11月5日の投開票を前に、ぜひ本作を手に取って彼女の熱いメッセージを感じてください。

──『ステイト・オブ・テラー』担当者より

ステイト・オブ・テラー
『ステイト・オブ・テラー』
ヒラリー・クリントン ルイーズ・ペニー 訳/吉野弘人
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