【NYのベストセラーランキングを先取り!】実在の人物も登場! ヒラリー・クリントンと作家ルイーズ・ペニーによる初めての政治サスペンス小説 ブックレビューfromNY<第72回>

NY在住のジャーナリスト・佐藤則男が紹介する、アメリカのベストセラー事情と、注目の一作をピックアップするコラムの72回目。今回は、オバマ政権で国務長官を務めた元民主党大統領候補ヒラリー・クリントンとカナダの作家ルイーズ・ペニーがタッグを組み、ホワイトハウスの危機を描いた政治サスペンスを紹介します。

<第72回>実在の人物も登場するヒラリー・クリントンの初めての国際政治サスペンス小説


State of Terror/ by Hillary Rodham Clinton and Louise Penny
Simon & Schuster, St. Martin’s, 2021.512ページ. US$30.00.

今月のベストセラー事情

今月の「ニューヨーク・タイムズ ベストセラー事情」は、ハードカバー・フィクション部門のトップ10 (2021 年11月7日の週)[1]を紹介する。

1.The Judge’s List

By John Grisham
Doubleday

レーシー・ストルツは、犯罪組織から膨大な賄賂を受け取っている判事を捜査中に襲われて殺されそうになった。3年後、彼女は、20年前の未解決殺人事件で父を殺され、犯人を追い続けている女性ジュリー・クロスビーと知り合った。Whistler(警鐘者)シリーズ2作目。
(ベストセラー初登場)


2.The Lincoln Highway

By Amor Towles
Viking

図らずも殺人事件に関与してしまい青少年更生施設で1年間働いた後、故郷のネブラスカに戻ったエメット・ワトソンは、乗ってきた施設の車のトランクに隠れて逃げ出してきた2人の友人と旅をする羽目に陥った。
(ベストセラー3週目)


3.The Wish

By Nicholas Sparks
Grand Central

1996年、16歳の時、マギー・ドーズは家族や友人と離れてノースカロライナ州の田舎の村で叔母と暮らすことになった。孤独だったマギーは知り合った青年ブライスの影響で写真の魅力に目覚め、2019年には有名な写真家になっていた。しかし、マギーはその年のクリスマス、深刻な病魔に侵されていることを知った。
(ベストセラー4週目)


4.State of Terror

By Hillary Rodham Clinton and Louise Penny
Simon & Schuster, St. Martin’s

政敵だった新任大統領から任命されたばかりの国務長官エレン・アダムスは、最初の大仕事だった韓国公式訪問が不首尾に終わった後、ヨーロッパで起こった連続テロ事件に直面した。米国元国務長官、元民主党大統領候補であるヒラリー・クリントンがカナダの作家ルイーズ・ペニーと共著で上梓した最初の小説。
(ベストセラー2週目)


5.Cloud Cuckoo Land

By Anthony Doerr
Scribner

コンスタンティノープルの防壁の中の女性の館で、13歳の孤児アンナは刺繡をするだけの退屈な毎日を送っていた。唯一の楽しみは、図書館で、鳥になってユートピアへ飛んでいくことを夢見たAethonのギリシャ神話を読むことだった。防壁の外には、侵略軍に徴兵された少年オーメイルがいた。そして、500年後のアイダホ州の図書館では、80歳になるゼノが5人の子供たちにAethonの劇の稽古をつけていた。さらに近未来の宇宙船の中では、一人ぼっちのコンスタンスが父親から聞かされたAethonの物語を書き留めていた。時空を超えて、過去、現在、未来の4人の運命は絡み合う。
(ベストセラー4週目)


6.Dear Santa

By Debbie Macomber
Ballantine

クリスマス、ワシントン州の実家へ帰省しても、リンディ・カーミカエルは楽しい気持ちになれなかった。付き合っていた彼と親友に裏切られ、グラフィックデザイナーとして全然創造力が湧かない日々を過ごしていたからだ。そんな彼女の気分転換にと、母エレンは子供の頃のようにサンタクロースに手紙を書くことを勧めた。
(ベストセラー初登場)


7.Apples Never Fall

By Liane Moriarty
Holt

突然母親が行方不明になったとき、ディレイニー家の4人の子供たちのうち2人は、父親が関わっているのではないかと疑い、残りの2人は父親のせいではないと思った……。
(ベストセラー6週目)


8.Oh William!

By Elizabeth Strout
Random House

ルーシー・バートンは、離婚した最初の夫ウィリアムと複雑でデリケートな関係を維持し続け、今になって家族の秘密に直面した。ルーシー・バートンを主人公にしたAmgashシリーズ3作目。
(ベストセラー初登場)


9.The Last Thing He Told Me

By Laura Dave
Simon & Schuster

オーウェン・マイケルズは失踪する前、結婚14か月目の妻ハナ・ホールに、「彼女を守ってくれ」と書いたメモを残した。《彼女》とは、オーウェンと前妻との間の16歳の娘ベイリーであるとハナにはすぐわかった。オーウェンとの連絡が取れないまま、ハナは連邦保安官やFBI捜査官の訪問を受けた。夫の過去に対する謎が深まり、ハナとベイリーは、オーウェンの過去を探り始めた。
(ベストセラー25週目)


10.Silverview

By John Le Carre
Viking

ジュリアン・ローンドスレイは都会での野心的な仕事を辞め、イギリスの海辺の小さな町に書店を開いた。その町にロンドンの諜報機関のトップが捜査に訪れた。
(ベストセラー2週目)


Apples Never Fall (6週目)とThe Last Thing He Told Me(25週目)が先月からリストに残っている。Billy Summer(12週目)、ロングセラーのThe Midnight Library (46週目)、先週このコラムで取り上げたHarlem Shuffle (6週目)がそれぞれ11位、12位、14位にランクされている。それ以外は新作が目立つ。

今月は、オバマ政権で国務長官を務めた元民主党大統領候補ヒラリー・クリントンがカナダの作家ルイーズ・ペニーと共著で上梓した初めての政治サスペンス小説State of Terrorを取り上げたい。先週第1位で初登場し、今週4位にランクされている。今年6月、ヒラリーの夫ビル・クリントン元大統領がジェームズ・パタースンとの共著で2作目の小説The President’s Daughterを出版し、2018年のThe President Is Missing同様ベストセラーとなったが、今度は妻であるヒラリーによる初めての小説ということで話題になっている。小説の主人公は中年の女性国務長官で、オバマ政権時代のヒラリー・クリントン国務長官を連想させる人物像となっている。

[1]“A version of this list appears in the November 7, 2021 issue of The New York Times Book Review. Rankings on weekly lists reflect sales for the week ending October 23, 2021.” (このベストセラー・リストは2021年11 月7日のニューヨーク・タイムズ紙ブックレビュー欄に掲載。リストは2021年10月23日で終わる週の売り上げをもとに作成されている。)

吉川 凪『世界でいちばん弱い妖怪』
葉真中 顕『灼熱』/終戦後ブラジルで起こった「勝ち負け抗争」の真実に迫るフィクション