ハクマン 部屋と締切(デッドエンド)と私 第124回

「ハクマン」第124回
メディア化は作家の夢だが、
「キャラNG」など
慎重派もいるらしい。

紫パイセンだけでなく、おそらく自分がキャラ化されるような有名作家は作品も何らかのメディア化をしていると思うが、アニメは最近の技術なので「作品はアニメ化されてないけど何故か俺がアニメ化された」という怪現象にあっている作家は結構多い気もする。

しかしやはり作家たるもの、まずは自分より自分が創り出したキャラクターが動いているところを見たいのではないだろうか。

特に作品内に自分の性癖を特攻ぶっこみまくったキャラを登場させている作家ならそう思うはずだ。
谷崎潤一郎も「俺よりナオミを京アニで頼むよ」と嘆いているに違いない、と思ったが「文豪ストレイドッグス」では谷崎潤一郎の妹という設定で「谷崎ナオミ」という美少女キャラが登場していることがわかった、これには潤一郎もニッコリ、と思いたいが、潤一郎ほど特攻している作家だと「俺以外このキャラには指一本触れさせたくない」という理由からメディア化は全断りな可能性もある。

実際「このキャラのスピンオフは許可しない」など「キャラNG」がある作家もいるらしい。

何せ本人が没しているため、自分のキャラ化を本人がどう思っているかは知る由もないが、紫パイセンは元々「夢女子」の素養があると評されているので、自分がヒロインに抜擢されるのはまんざらでもないのかもしれない。

それよりも今あの世で激怒しているかもしれないのは清少納言パイセンの方である。

紫パイセンの方が目立っていて、大河でも紫パイセンが主役で自分がサブなことに憤っているに違いない、という意味ではない。

確かに紫パイセンと納言パイセンは立場的に対立していたとも言えるし、同じ時代の女流作家ということで比較されることも多く、実際紫パイセンが納言パイセンを快く思っていなかったみたいな記録があるという話も聞いたことがある。

だが、そもそも紫パイセンと納言パイセンはジャンルが全く違う。
現代のオタクや同人女の大きな諍いや学級会というのも大体同ジャンル内で起こるものであり、コミケの18禁女性向け壁サーとコミティアでエッセイ本を出しているサークルが殴り合うという現象はあまりないのだ。

故に紫パイセンと納言パイセンがそこまでガチのライバル関係だったかというとそうでもなく「紫式部派?清少納言派?」という問いはクラスに2人しかいない、という理由だけで「つきあうならどっち?」というジャッジに晒される工業高校の女子レベルに理不尽なものであり「勝手に戦わすな!」という逆アバターVSエイリアン状態なのかもしれない。

 
カレー沢薫(かれーざわ・かおる)

漫画家、エッセイスト。漫画『クレムリン』でデビュー。 エッセイ作品に『負ける技術』『ブスの本懐』(太田出版)など多数。

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