ハクマン 部屋と締切(デッドエンド)と私 第124回

「ハクマン」第124回
メディア化は作家の夢だが、
「キャラNG」など
慎重派もいるらしい。

それに、2人がオタク同人女だとすれば、最大の関心事は他の作家より「推し」のことなはずである。

紫パイセンの推しは、言わずもがな自分の推しを理想化して作ったと言われている光源氏であり、納言パイセンの推しは自らが仕えた中宮定子である。

しかも納言パイセンは紫パイセンとは逆に、遠くから推しを見守りたい「推しの部屋の壁のシミ派」と評されている。

しかし、光源氏とセットで有名な紫式部に対し、清少納言と中宮定子はあきらかに清少納言の方が有名なのである。

オタクにとって、世間が自分の推しではなく、それを凝視しているシミである自分に注目しているというのはもはや不可解でしかない。
「俺はいいからお前らもっと俺の推しの良さみを見ろよ」という怒りで死んでいるのに憤死寸前なのではないかと心配である。

ただし、清少納言が同担拒否過激派である可能性もゼロではない。
そうだとしたら、世間のバカどもに定子様のかわいさがバレてにわかが増えるのは断固阻止したいところである。
ならば、自分の方に注目が集まって庶民どもの汚い視線が定子様に向いていないのは悪くない状況であり、むしろこの度の大河で定子様が高畑充希演じる美少女として顕現していることに関しては「おいやめろ」でしかないのかもしれない。

それを言うなら自分の推しである光源氏を第三者に使われまくっている紫パイセンが同担拒否だった方がヤバいのだが、もしそうならパイセンは平将門に並ぶ怨霊になっていると思うので、多分二次創作には寛大なタイプの作者なのだろう。

メディア化は多くの作家の夢ではあるが、自分の作品やキャラを他人の手にゆだねるということでもあるので、慎重になっている作家もいるようだ。

ちなみに私は寛大な方なので、気軽にメディア化してもらえればと思う。

「ハクマン」第124回

(つづく)
次回更新予定日 2024-2-14

 
カレー沢薫(かれーざわ・かおる)

漫画家、エッセイスト。漫画『クレムリン』でデビュー。 エッセイ作品に『負ける技術』『ブスの本懐』(太田出版)など多数。

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