ハクマン 部屋と締切(デッドエンド)と私 第53回
「編集者も意外と消える」
と覚えておいてほしい。
他にも「今まで原稿料の過払いがあったので次で引かせてもらいます」という連絡なしにいきなり、一括で引かれたこともある。
編集者と言ったら、神経質なイメージがあるかもしれないが、このように他人の金のことなど気にしないキップの良いタイプもたまにいるのだ。
また、ホウレンソウ不足の言い訳は、こちらと大差なく、大体「メール見落としてました」であり、そして意外と多いのが「実は体調不良で…」だ。
編集者は人の子ではないが、化物も眉間に鉄の杭を打てば死んだりするので、体調を崩すこともあるだろう。
「貴様がこれ見よがしに置いているレッドブルを静脈に打ってでも仕事をしろ」と言うつもりはない。
しかしそれが「1ヵ月音信不通」という、相当の長患いの場合もあるのだ。
その間「体調不良で」とこちらに伝えることはできなかったのか、もしくは他の者に頼めなかったのか、お前の所属している会社の㈱部分は株式会社という意味ではなく、そこまでが会社名の「社長俺、社員俺、以上」というただの事務所なのか、と言いたいが、やはり病気をしていた、と言われるとこちらも「それは大変でしたね」としか言えないのである。
ただ、これらは、10年漫画家をやり、数十人の編集者とつきあう中で「こういう珍しいこともあった」というレアケースである。
逆に私は編集者が数十人がかりでやるポンコツを、10年間、ただ一人でやりつづけてきた、言っても良い。
つまり「自分もやる」ので、相手にやられても「これ自分でもやったことあるやつだ!」と進研ゼミ状態になれるため、そこまでは怒らなくて済むのだ。
逆に、担当作家がちゃんとしている、というのは助かるかもしれないが、相手がちゃんとしている分、自分もちゃんとしなければ怒られるということだ。
作家の「ちゃんとしなければいけない」というのは「期限内に原稿と請求を出す」ぐらいだが、編集者の仕事を全てノーミスというのはなかなか難しいのではないだろうか。
担当作家がだらしなくて困っていると思っているかもしれないが「締め切りを守り、事務仕事もでき、社会性もあるのに、何故か作家」という怖すぎる人種の担当になるよりは、遥かに楽なのではないか。
編集者はもっと、担当作家がポンコツであることに感謝した方が良い。
(つづく)