ハクマン 部屋と締切(デッドエンド)と私 第57回

ハクマン57回エッセイは「人生の切り売り」。
フィクションよりも
リスキーなジャンルである。

貴様が砕ける勢いで当たってきたら、相手も無事で済むはずがないのだ。

これは主に恋愛の「告白」の話だが、他の告白でも「そんなこと俺に言われても」と困惑を与える可能性は十分にある。
さらに告白する側は相手に何かしら「良い反応」を期待して告っている場合が多い。

つまり相手にとってはいきなりクイズを出されたみたいになってしまい、不正解を出すと「はい!俺の心証ポイントボッシュート!」みたいな顔をされ、下手をすると「勇気を出して友達に告白したのに微妙な顔をされてショック…もう二度と言わない」みたいなことを書かれてしまう。

このように、告白というのは双方にリスクがあり、相手にその負担を負わせるのが嫌で「実はゴリラである」などの秘密を1人で抱え込んだままOLなどを続けている人も多いのではないかと思う。

エッセイというのはテーマにもよるが、割と面と向かって告白するには憚られることが題材になっているものも多い。

故にエッセイは「人生の切り売り」と言われることもある。
確かにエッセイというジャンルはフィクションよりもリスキーなところはある。

私は一応主にギャグ漫画を描いているのだが、描いている本人は愛嬌の欠片もない上に冗談が一切通じない。
このように、作品と作者の人格は別であり、どれだけキャラが卑劣な行いをしても、それと作者本人が即結び付けられるということはない。

もちろん、作者の卑劣な考えをキャラに言わせているだけということもよくあるが、少なくとも「あくまでフィクション」という逃げは打てる。

しかしエッセイ漫画の場合は、作者の卑劣な考えを、そのまま作者が言ってしまうので、場合によってはものすごく好感度が下がる。
また自身のプライベートを書くだけならよいが、自ずと自分に関わった人のことも描くことになるため、トラブルになるケースもある。

トラブルを避けるには、出す人全員に許可を取るか、自分と自分にだけ見える人の話を描くしかないが、前者は大変だし、後者は売れないと思う。

カレー沢薫(かれーざわ・かおる)

漫画家、エッセイスト。漫画『クレムリン』でデビュー。 エッセイ作品に『負ける技術』『ブスの本懐』(太田出版)など多数。

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