ハクマン 部屋と締切(デッドエンド)と私 第83回

ハクマン第83回親ガチャと出生地ガチャの
SSR2枚抜きを
しなければいけないのである。

そもそも漫画家が東京に住むメリットは、原稿をすぐ渡せる、担当が作家の家に詰めやすい以外特になかったし、データ受け渡しが当たり前となった今、いよいよ上京しなければいけない理由はなくなった。

打ち合わせがしやすいという意見も一応あったが、それは電話でも不可能ではないし、今回リモート打ち合わせが主流になったことにより、本格的に「お互いの面を直接見なければいけない意味のなさ」が実証された。
むしろ直接顔を合わせないことにより「カッとなってやった案件」が減ってよかったんじゃないかと思う。

また居住地だけではなく、漫画家は他の格差もあまり関係ない職業である。
一体どこで間違ったのかというぐらい家柄もよく高学歴な人間が漫画家をやっている場合もあるし、逆に「最終学歴幼稚園」という弱冠6歳にして法に背いているようなタイプもいる。
さらに、東大卒より幼卒作家の方が売れる、ということも平気で起こる世界なのだ。

他の職業よりも比較的親ガチャや出生地ガチャの影響を受けづらく、さらに大成功できる可能性があるという意味では漫画家は夢のある職業だ。

つまりボクサーやラッパーと並んで良いぐらい、底辺からの成り上がり職業のはずなのだが、いかんせん漫画家は絵面が地味なのである。

ボクサーやラッパーのサクセスストーリーがハリウッド映画化することはあっても、漫画家はおそらくない。

だが、限りなくゼロの状態から成り上がれる可能性がなくはないのが漫画家というものである、親ガチャ出生地ガチャ共にドブを引いた生まれながらの無敵の人は、通り魔をやるよりは漫画家を目指すことをお勧めする。

ハクマン第83回

(つづく)
次回更新予定日 2022-5-25

 
カレー沢薫(かれーざわ・かおる)

漫画家、エッセイスト。漫画『クレムリン』でデビュー。 エッセイ作品に『負ける技術』『ブスの本懐』(太田出版)など多数。

◎編集者コラム◎ 『うかれ堂騒動記 恋のかわら版』吉森大祐
◎編集者コラム◎ 『鴨川食堂しあわせ』柏井 壽