ハクマン 部屋と締切(デッドエンド)と私 第83回

ハクマン第83回親ガチャと出生地ガチャの
SSR2枚抜きを
しなければいけないのである。

だが、今回コロナの影響によるリモートワークの普及で働き方が大きく変わり、そのおかげで会社勤めが精神的に楽になったという人も少なからずいるのではないだろうか。

私ももう少し早くコロナが蔓延し、こういう働き方が普及していれば、会社を辞めず社会からドロップアウトせずに済んだかもしれない。
もはや病原性ウイルスにすら味方されない人生だ。

またリモートワークの功績は、コミュ症が会社の便所で行う精神統一の時間の短縮だけではなく「地方格差の是正」もある。

リモートワークの普及により、先日某大企業が「日本国内に住んでいる奴なら誰でも採用する」と発表したそうだ。
逆に言えば、今まで東京にある有名企業に入社したかったら上京するしかなかったのである。

この就職における地方格差というのは夢を持った地方生まれにとっては地味に痛い要素なのだ。
田舎には有名企業がない以前に職業の選択肢自体がなく、たとえ転売ヤーのために行列に並ぶだけの簡単なお仕事に就きたいと熱望しても田舎でそういう求人はほとんどないのだ。

未だに「都会に行かなければ就けない職業」は多いのである。

よって能力はあっても経済的、家庭的な問題で「上京」というハードルが越えられず、夢を断念せざるを得ない人もいる。
よって、たとえ親ガチャSSRを引いても、出生地ガチャで「幾三ニキが歌ってたところ」を引くと、まずそこを脱出しなければ人生が始まらないので「都会」を引いた人間より出遅れてしまうのだ。
つまり「親」と「出生地」のSSR2枚抜きをしなければいけないのである。
それもソシャゲのガチャのように出るまで回させてくれる訳ではなく一発勝負だ。
この出生ガチャの渋さに比べれば、どんなソシャゲも良心的である。

 
それがどこに住んでいても入社したい企業に入社でき、就きたい仕事に就けるようになるというなら、地域格差はかなり軽減されると言えるだろう。

ちなみに漫画家というのは、大分前から地域格差があまりない職業になっている。
現に私も10年以上前から漫画家をやっているが、当時からずっと地方住みであり、それで不便を感じたことは特にない。

 
カレー沢薫(かれーざわ・かおる)

漫画家、エッセイスト。漫画『クレムリン』でデビュー。 エッセイ作品に『負ける技術』『ブスの本懐』(太田出版)など多数。

◎編集者コラム◎ 『うかれ堂騒動記 恋のかわら版』吉森大祐
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