スピリチュアル探偵 第1回

スピリチュアル探偵
素人なのに!?
かつて月刊誌の占いコーナーを担当した罪滅ぼしに、
全国の霊能者を訪ね歩く新連載!


〈CASE.1〉獅子の力を宿した能力者

「占い師を探してるんだって? よく当たると評判の先生がいるけど、紹介しようか」

 長く霊能者ミシュラン活動を続けてきたおかげで、こうした声をかけてもらえる機会が増えました。ただ、そのたびに「いえ、探してるのは占い師じゃなくて霊能者です」と訂正しなければならないのが厄介なところで、たいていの人には「それ、占いと何が違うの?」と怪訝な顔をされてしまいます。

 ところが、クチコミでは「占い師」として流通している先生でも、話を丁寧にひもといてみると、何らかの不思議な力を謳っている事例が少なくないので油断なりません。数年前に僕の耳に飛び込んできたその人物も、当初は「ライオン占いの面白い先生がいるけど、会ってみる?」と、なんだかおかしなタレコミから始まりました。

 動物占いならぬライオン占い。これはもう子供だましの臭いがぷんぷんします。それでも僕が神奈川県の奥地まで足を運ぶ気になったのは、仲介人の次のような説明に惹かれたからでした。

「なんでもその先生、ライオンの守護霊に護られている、世界でも稀有な人なんだってさ。うちの親が懇意にしてて、たまに自分のことも見てくれるんだけど、子供が産まれる時期なんかもその先生の言う通りになったんだよなあ……。ちょっとインパクトの強い人だけど、興味あるなら紹介するよ」

 正直、ライオンの守護霊云々というのはマイナス材料でしかないのですが、出産の時期を当てたというのは少し気になります。少なくとも話の種にはなりそうですし、僕はさっそく面会を申し入れ、ライオン先生に指定された日時に神奈川県某所へと向かったのでした。

文字通りライオンの皮をかぶった先生が登場

 都内から東名高速を経由して降り立ったその地域は、豊かな自然に囲まれていて、ライオンとは言わずとも、確かに様々な野生動物と触れ合えそうな雰囲気です。小綺麗な一戸建てのインターフォンを鳴らすと、夫人と思しき初老の女性が「お待ちしておりました」と迎え入れてくれました。

 まずはリビングのダイニングテーブルに通され、お茶をいただきながら用紙に名前や住所、生年月日、血液型などを記入。少し見回した感じでは普通の住宅で、とてもライオンの霊と共生しているようには見えません。ほどなく、夫人からこう説明がありました。

「今、先生が準備されていますので、少しだけお待ちくださいね。先に料金のご説明をさせていただきますと、1時間で2万5000円。ご延長される場合は30分1万円で承りますので、その場で先生に伝えてください」

 自分の夫のことを「先生」と呼ぶんだ……と、ちょっと引いてしまった僕ですが、霊能者たるものこうした演出も大切でしょう。料金も占いと比べれば高いものの、霊能者としてはよくある価格帯。「わかりました」と返しながら、早くも僕の胸は高鳴っていました。一体、どんなセッションが待っているのでしょうか。

 それから5分ほど経ってからでしょうか。どうやら「先生」の準備が整ったようで、夫人から別室へと案内されます。通されたのはカウンセリング用のテーブルセットを置いた6畳ほどの和室でしたが、細かな内装よりも真っ先に目を奪われたのは、「先生」の出で立ちです。

「お待たせしてすいませんね」とにこやかに会釈をする和装の男性は、ライオンを模した奇妙な被り物を頭にのせていたのです。

「目」は重要な発信器なのだそうです

 被り物といっても、頭部をまるごと覆うマスクマンタイプのものではありません。獅子の顔面をかたどった木製のカチューシャのようなものに、布(あるいは羽かも)を扇状に飾り付けた代物です。

 これは予想外の演出。思わず怯んでしまいましたが、イジらないのもかえって不自然な気がして、「おお、なんだかスゴいですね」と、自分でもよくわからない第一声を発しながら、僕はライオン先生の正面に腰を下ろしました。

「遠くまでわざわざお越しいただいて……」とか、「この地域へ来るのは初めてですか?」といった、ありがちな前口上に適当な相槌を打ったあと、カウンセリングスタートです。

「──さあて、今日は何かお悩みがおありですか」

 霊能者の口火の切り方には2通りあり、「何を知りたいですか?」と聞いてくるパターンと、自らいろいろ話し始めるパターンのいずれかが王道。ライオン先生は前者のようです。

 こんな時、僕はお決まりのテーマ3点セットを用意しています。それは仕事・健康・結婚です。これはそれぞれ本当に知りたいことでありながら、質問をぶらさないことで様々な霊能者の対応を定点観測しようという思惑からのこと。

 ライオン先生は「じゃあ、健康面から行きましょうね」と言うと、しばらく目をつぶって数珠をしゃりしゃり鳴らし始めました。そしておもむろに、「うん、だいぶ疲れてるね。とくに……これは頭のほう、目かな」とつぶやくように言います。

「あのね、目というのは情報を受け取るだけの器官じゃないんです。人間にとって大切な発信器でもあるの。あなたの場合、目を酷使し過ぎているからその発信器が鈍り、この世界の中における自分のポジションが揺らいでしまうの。わかる?」

 いや、わかんない。……などと答えるわけにもいかず、ひたすら「はあ」「なるほど」と受けに徹する僕。

「インドには古来から、グリフォンという獅子と鷲が融合した生物が伝えられているんだけどね、知ってるかな。これは大地(獅子)と大空(鷲)の両方に、しっかりとポジションを持つ強い神様の姿を表しているの。でも、牙も羽も持たない人間は、目でそのポジションを発信していかなきゃいけないの。わかる?」

 やっぱりわからないのですが、要は、目のコンディショニングを重視するのが、体のバイオリズムを整備する第一歩なのだそう。ここで獅子を持ち出すあたり、ライオン先生の芸風は一貫しています。

 


「スピリチュアル探偵」アーカイヴ

友清 哲(ともきよ・さとし)
1974年、神奈川県生まれ。フリーライター。近年はルポルタージュを中心に著述を展開中。主な著書に『この場所だけが知っている 消えた日本史の謎』(光文社知恵の森文庫)、『一度は行きたい戦争遺跡』(PHP文庫)、『物語で知る日本酒と酒蔵』『日本クラフトビール紀行』(ともにイースト新書Q)、『作家になる技術』(扶桑社文庫)ほか。

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