スピリチュアル探偵 第1回

スピリチュアル探偵
素人なのに!?
かつて月刊誌の占いコーナーを担当した罪滅ぼしに、
全国の霊能者を訪ね歩く新連載!


ライオン先生が突然、激怒したワケ

「あと、気になるのは胃腸だね。これは……(数珠をしゃりしゃりしながら)、うん。食生活が不規則なんだ。もしかして、1日3食とらなきゃいけないと思ってない? 本当の規則正しい食生活って、そういうことじゃないんだ。獅子はお腹が空いた時しか狩りをしない。つまり、お腹が空いてもないのに食べるのは不調の元なの」

「いえ、たいてい1日2食しかとってないんですが……」

「同じことだよ! そういう規則性にとらわれるのがいけないんだ」

 合間合間に数珠をこすりながら、だんだんライオン先生の口調が熱を帯びてきます。

 このあと、仕事や結婚についてもいろいろ言われたのですが、すべて謎の世界観に照らし合わせて言われているようで、あまり参考にはなりません。科学的なエビデンスのないことを、もっともらしいたとえ話を交えてまくしたてるのは、典型的なインチキの手口です。

(これは、ハズレだったか……)

 常に本物の能力者との邂逅を期待している僕は、内心ですっかり落胆していました。「目が疲れている」「胃腸が疲れている」「食生活が不規則」というのは、大半の現代人に当てはまる便利な言葉です。あとは相手の表情を見ながら、相手のノリに合わせてそれらしく助言を補強していくのが典型的なインチキのメソッド。おそらく、仲介人の出産時期を当てたという話も、こうしてペースを握った上で、何らかの誘導があったと考えるべきでしょう。

 しかし、僕としてもこのまま手ぶらで帰るわけにはいきません。高速代も含め、そこそこ大きな出費です。しゃべり続けるライオン先生を適当なタイミングで遮って、こう向けてみました。

「──ところで、先生はなぜ獅子の加護を受けているんですか?」

 この質問は満更でもなさそうで、ライオン先生はニヤリとしながらお茶をひとくち啜りました。やはり「ライオン」ではなく「獅子」と言ってあげたのがよかったのでしょう。

 ライオン先生は我が意を得たりといった調子で、ライオンのたてがみが何のためにあるか、古代からいかに百獣の王としての地位を守ってきたか、実は温厚な性格でめったに人を襲うことはないといったことなどを、ノリノリで語り続けます。……でも、どれもウィキペディアを引けばわかりそうなことばかり。これでカウンセリング代を取られるのではたまりません。

「あの、先生。ラ……獅子の生態はよくわかりました。その獅子の霊が、どうして先生の守護霊をやってるんですか? できれば僕も獅子に護られたいんですけど」

 この、最後のひとことが地雷でした。ライオン先生は表情を一変させ、テーブルをバン!と叩いて怒鳴るように言いました。

「そんなこと、簡単に言うもんじゃないよっ! 誰でも護ってもらえるなら苦労はないでしょ! 100年早いってんだよ、まったく」

 あんただって100年も生きてないだろ、と思わなくもなかったですが、ここでちょうど1時間。とても延長を言い出せるムードではなく、僕は非礼(なのか?)を詫びつつお礼を言って、和室から退散したのでした。

 最後、見送ってくれた夫人に料金を渡す際、「たまにね、ああいうことがあるんです。あまり気になさらないでくださいね」と言われました。おいおい、甘やかしすぎでしょ。

 結局、ライオンの守護霊の謎は解けないまま。帰路はハンドルを握りながら、ただただ悶々とした感情を処理することに専心するしかありませんでした。仲介してくれた知人の顔を潰してしまったかもしれないなと、ちょっと申し訳ない気持ちになりましたが……僕、そんな悪いこと言いましたかね?

 パワハラ、モラハラがますます問題視される令和になってから振り返ってみれば、こういう激情型のおじさんにとって、すっかり生きづらい世の中になりました。まるで絶滅が危惧されるライオンのような人だったなと、あの獅子の被り物が懐かしく思い返されます。

(つづく)

 


「スピリチュアル探偵」アーカイヴ

友清 哲(ともきよ・さとし)
1974年、神奈川県生まれ。フリーライター。近年はルポルタージュを中心に著述を展開中。主な著書に『この場所だけが知っている 消えた日本史の謎』(光文社知恵の森文庫)、『一度は行きたい戦争遺跡』(PHP文庫)、『物語で知る日本酒と酒蔵』『日本クラフトビール紀行』(ともにイースト新書Q)、『作家になる技術』(扶桑社文庫)ほか。

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