スピリチュアル探偵 第8回

スピリチュアル探偵 第8回
四国で探偵を待ち構えていたのは、
"ヒゲダン"先生だった!?


死後の世界の仕組みを探る

「死後の世界に興味をお持ちだそうですね」

 そう口火を切ったのはヒゲダン先生。僕の素性は仲介者からある程度伝わっているようです。

「ええ、子供の頃からそういう分野が大好きで。ちょうど四国へ来る用事があったものですから、厚かましくもお邪魔してしまいました」

 僕がそう告げると、フッフッフッと口角を上げたヒゲダン先生。よかった、野太い声に反して親しみやすそうな雰囲気です。

 今回は実は、カウンセリングの形ではありません。「霊的世界に興味を持つフリーライター」として面会のアポイントを取り付けているので、どちらかといえば取材に近いイメージです。そのため、いつものように将来がどうとか健康面がどうとかお聞きするのではなく、このヒゲダン先生の話を聞くこと自体が主目的。

 こうした形を取らざるを得なかったのは、この先生がそもそもカウンセリング活動を行なっていないためですが、それでも僕としては、「視える」というならぜひその真贋を見極めたいところ。どうにかそういう流れに持っていかねばなりません。

「僕もね、昔からそうした世界には縁があって、自分なりにずっと勉強を続けているんですよ」

「興味があって」ではなく「縁があって」と言ったのを僕は聞き逃しませんでしたが、その言葉の通り、難しそうな文献がぎっちり詰まった書棚の一角には、「来世」や「臨死体験」と記された背表紙がいくつか見受けられます。柳田國男の『遠野物語』もちらりと見えました。

「あの、先生はもともと学者さんだったそうですが、ご専門は何ですか?」
「いやいや、学者じゃないよ。単なる在野の研究家。学生時代に民俗学をやっていた流れで、宗教学とか民間信仰の分野にも首を突っ込んでしまったんです」

 おっと、早くも尾ひれが1枚、ハラリとはがれ落ちました。失礼ながら、学者と巷の研究家ではバリューが大きく異なります。内心、少し落胆した僕でしたが、構わずセッションを続けましょう。

「僕の後ろにも守護霊がいるんですか?」

「では、先生がそういう霊的な世界に関心を持ったきっかけは何ですか?」
「そりゃあもう、ずーっと昔から悩まされていたからですよ」
「……と、言いますと?」
「子供の頃から、周囲の大人には見えない人が僕には見えていたり、不思議なメッセージを受け取ったり、本当にいろんなことがあったからね」
「不思議なメッセージというのは?」
「彼らはよく話しかけてくるんだよ。わかってくれる人をずっと探してるんだろうね。人間と同じで、構ってほしくてしかたがないんだ」

 ほほう。徐々に香ばしさが増してきました。……って、よく見たら先生のデスクの片隅で、お香らしきものが焚かれています。香ばしいのはリアルでした。

 そんな僕の視線に気づいたヒゲダン先生は、「あ、煙かったかな?」とうっすら煙を吹いている小皿を少し遠ざけてくれました。

「お香がお好きなんですか」
「いや、これはお香じゃなくてセージの葉なんだ」
「セージ?」
「うん、ホワイトセージ。聖なるハーブと呼ばれていて、これを焚いておくとおかしなのが入ってこないの」

 ダンディーな物腰とは裏腹に、なんだか女子力の高いことを言う先生。「おかしなの」というのは霊的なヤツを指しているようです。

 でもたしかに、セージの葉に除霊効果があるという話はこれまでも他の自称霊能者から聞いたことがあります。彼らの世界では常套手段なのでしょう。この部屋がなんとなくスモーキーなのは、パイプではなくこいつが原因だったようです。

 ヒゲダン先生はその後、ご自身の幼少期の体験をあれこれと丁寧に語ってくれました。4~5歳くらいの頃までは、リアルな人間と霊の区別がつかなくて苦労したこと。通っていた小学校では、自分にしか見えていない体育の先生がいたこと。プールは死者の念が深く、怖くて入れなかったこと……etc。

 どれもこれも聞いている分にはなかなかの面白トーク。過去には地元のローカル番組で、素性を隠してこうした体験談を披露したことがあるのだそうです。

 つい夢中になって聞き入ってしまい、気がつけばあっという間に1時間が経過していました。いかんいかん、このまま手ぶらで帰ってはスピリチュアル探偵の名折れというもの。ここらで僕は少し踏み込んでみることにしました。

「──ところで先生、いま僕の後ろにも何らかの守護霊さんが視えてるんですか?」

 


「スピリチュアル探偵」アーカイヴ

友清 哲(ともきよ・さとし)
1974年、神奈川県生まれ。フリーライター。近年はルポルタージュを中心に著述を展開中。主な著書に『この場所だけが知っている 消えた日本史の謎』(光文社知恵の森文庫)、『一度は行きたい戦争遺跡』(PHP文庫)、『物語で知る日本酒と酒蔵』『日本クラフトビール紀行』(ともにイースト新書Q)、『作家になる技術』(扶桑社文庫)ほか。

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