想い合う家族

『嘘』(北國浩二著)は、人目を憚らずに最近一番涙を流した作品だ。
書店員名前
ブックマルシェ津田沼店(千葉) 渡邉森夫さん

 世の中には色々な形をした家族がある。ひと括りにはできないが、そのいくつかを紹介したい。テーマは「押し付けないけど想い合う家族」。

きょうの日は、さようなら
川出書房新社

 

『きょうの日は、さようなら』(石田香織著)は、連れ子同士のきょうだい、キョウスケとキョウコの物語。幼い頃に母の失踪を境にそれぞれの道を歩むことになるが、偶然の再会からまたきょうだいの時間を取り戻していく。この作品には常に哀愁と愛情が流れている。登場人物はいずれも独りぼっちのようだが、どこか見守り合うような空気感を纏って生きている。そこには少しずつ分け合い、支え合う優しさだけではない強さと愛情がある。明日はもっと幸せになれる、そういう希望が湧いてくる作品だ。

 

さらさら流る
双葉社

 

 家族仲良く、特別なことはなくても毎日を穏やかに幸せに過ごしている菫は、ある日一度だけ撮った自分のヌード写真をネットで見つけてしまう。『さらさら流る』(柚木麻子著)は菫の穏やかな幸せと崩壊、そして再生を描いた作品だ。彼との出会いは大学の飲み会で酔い醒ましを兼ねて渋谷から自宅まで暗渠を辿りながら帰る場面から始まる。暗渠の下の川の流れのように、時も常に流れている。その時の流れを自分の中で受け入れた時、初めて立ち上がることができる。自分ひとりではない、家族の支えがあって今まで以上の力強さが得られる。踏み出す一歩を迷った時に背中を押してくれる作品だ。

 

嘘
PHP文芸文庫

 

「嘘」が付く慣用句は多い。「嘘つきは泥棒の始まり」、「嘘から出た真」──。偽り騙す嘘、相手を想う優しい嘘。『嘘』(北國浩二著)は積み重なった嘘の先に、希望の光を照らす作品だ。絵本作家の千紗子は疎遠になっていた父が痴呆症になったことを知り、介護をするために帰郷する。そこで同乗した車が事故を起こし、親友を庇うため、けがを負った少年を自宅に連れ帰る。少年も記憶を失くし、体には虐待された痕が残っていた。痴呆の進行に悩む父、生みの親を捨てる覚悟を持つ少年、実子を失くした過去から立ち上がれない千紗子。それぞれの想いを抱えながら、ぎこちない歩みではあるもののひと夏を過ごし、「家族」として歩きはじめる。雪の上に降り積る新しい雪のように重なる嘘は、優しさと愛に溢れている。現実離れだという指摘も多いかもしれないが、人目を憚らずに最近一番涙を流した作品。

本の妖精 夫久山徳三郎 Book.39
秋吉理香子さん × 上野水香さん SPECIAL対談