酒村ゆっけ、さん インタビュー連載「私の本」vol.15 第3回

酒村ゆっけ、「私の本」

大人気 YouTuber である酒村ゆっけ、さん。第3回は初小説刊行のいきさつと、今後の活動の目標、そして最近面白いと感じていることについてお聞きしました。ホラーやゾンビ映画が好きな素顔、面白かったという小説などを通して、その独自ワールドの一端に触れます。


本を出版するという漠然とした夢が現実に

 今年の春に、初エッセイ『無職、ときどきハイボール』を出版しました。「本を出さないか」といわれたときは、本当にうれしかった。いつかは書いてみたいという漠然とした夢や憧れは、昔から持っていたので。

 自分に書けるのかな?という不安もありましたが、YouTube でいままでやっていたテイストなら、もしかしたらできるかもしれないと思って挑戦したんです。あとは、編集者さんのおだてもあって(笑)。

 鳥貴族とか?野家とか、そこでの感想や描写を、映像なしで伝わるようにと頑張りました。

酔った妄想で紡いだ10の短編集

 それに続いて、8月下旬には小説『酒に溺れた人魚姫、海の仲間を食い散らかす』も上梓しました。これは夏目漱石の『夢十夜』のような感じで、10の短編で構成されていますが、私が酔っ払ったときに書いた小説、という体になっているんです。

酒村ゆっけ、「私の本」

 私の人生にはまだ小説にして面白いような実体験もないですし、だから酔ったときの妄想で書いたものです。

 子供の頃に読んだ『かいけつゾロリ』もそうですが、夢のような世界や妄想はもともと好きでしたし、そこにドロドロした感情や闇といった人間の本性を投影していきました。

 でも正直、すごく難しかったです。当初は編集の方に「次は文芸で行こうー!」みたいな感じで言われて、「無理ですよ、無理ですよ」と断ったものの「なんとかなる」と説得されて、挑戦したんですけれど。

 大学の卒論も初エッセイも、締め切り直前でもう絶対にまにあわないという段階になって一気に集中して書き始めるという共通点はありましたが、小説はそれ以上にあと回しにしていて。

 ここを過ぎると印刷所の都合で絶対に出版できません、というもう最終の最終のデッドラインを告げられてから、一気に書き始めました。でも書いてみたら、意外と勢いに乗って最後まで行けましたね。

言葉で勝負する文化人になりたい

 今後は、文章をメインに活動していければと思っています。言葉を使って勝負していけたらな、と。酒エッセイだけではなく、作詞や連載を持ったりと、表現の場を増やしていければと考えています。

 小説を書いてみて、映像で表せないようなことも、妄想を言葉にすればストーリーになるというのが文章の魅力だと気づいたんですね。

 もちろん映像は映像で、今後は映画の短編とか、ミュージックビデオの監督とかやりたいなというのもあります。両方ともきちんとプロの視点に立てる、文化人的なポジションになれればと、そう思っています。

 最近は時間があると、創作にも役立つかもしれないと思って映画を見たり、本を読んだりしています。なかでも最近、面白かったのが朝井リョウさんの『正欲』という、人間のアンダーグラウンドな部分を描いたぶ厚めの小説です。

 水に対して性欲を抱く人がこの世のなかには存在するんだ、あたり前があたり前じゃない世界が実際にあるんだ、とそう強く感じたんです。

 私の知らない世界がまだまだあるんだという気分を、再び掘り起こしてくれた小説です。

ホラーやゾンビのイベントで妄想を刺激

 それから、いまはコロナ禍で難しいことも多いのですが、変わったイベントには機会があれば行きたいですね。映画『ロッキー・ホラー・ショー』が現実のものとなっている夜会が東京・鶯谷にあるんですよ。自分のフェチズムのはけ口として来ている人もいて、もともとホラー映画好きの私としてはすごく興味深いんです。

 これもまだ開催されるかわかりませんが、今月はゾンビキャンプというのも予定されていて、もし条件が整えば参加したいな、と思っています。

 私は大学の卒論テーマもゾンビ映画だったほど、すごく好きな世界で。大学時代にも行って、楽しかった記憶があるんです。銃が落ちてて、それを手に取ってバン、と撃って、自分がゾンビを惹きつけている間に「お前たち、先に行け!」と友達に言ったりできるような参加型のイベントなんです。

 自分の選択肢によって物語を動かせるのが面白いし、自分も映画の主人公のような気持ちになれて、すごく楽しい。そんなふうに、いつも私は妄想の世界で遊んでいるんです。

(貴重なお話はこれでおしまいです)
(取材・構成/鳥海美奈子)

酒村ゆっけ、(さかむら・ゆっけ
酒を愛し、酒に愛される孤独な女。新卒半年で仕事を辞め、そのままネオ無職を全う中。食べること、映画や本、そして美味しいお酒に溺れる毎日。そんな酒との生活を文章に綴り、YouTube にて酒テロ動画を発信している。

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