酒村ゆっけ、さん インタビュー連載「私の本」vol.15 第2回

酒村ゆっけ、「私の本」

40万人もの登録者数を獲得している YouTube チャンネル「世界一のゆっけ」の主催者・酒村ゆっけ、さん。映像とナレーションを組み合わせた動画には、その独特のワードセンスが光ります。果たしてなにに影響を受けて数々の言葉を獲得し、紡いできたのかをお聞きしました。


アーティストの歌詞にインスパイアされる

 YouTube の投稿は、まず撮影して、そのあとに台本を書き始めます。独特のワードセンスがいい、と言っていただくことも多いんですが、SNSをやるまでは、自分は書く才能はないと思っていたんです。

 でもあのテイストだと書きやすかったし、楽しいと思えて、さらにやり続けているうちにいろんな方が面白いと反応してくださるようになったので、書くモチベーションと楽しさが高まっていく、という感じでした。それで初めて、このスタイルが合っているのかなと感じたんです。

 自分が書く言葉は、造語にしたり、お酒を人に例えてみたりと、普通の表現ではなくて面白いと感じてもらえるものにしたいなとは考えています。「ネオ無職」も造語のひとつですが、「ポスト無職」的なイメージで名づけました。

 そういった言葉は、アーティストの歌詞から影響を受けることも多いですね。高校生のときに Base Ball Bear を聴いてからバンドに興味を持つようになって、歌詞を書く小出祐介さんにはけっこうインスパイアを受けています。 『4D界隈』の「昼下がり 死にたがりの彼女」とか、歌詞に文学的なところがあるのがすごくよくて。彼の言葉もじつはときどきポンと投稿のなかに入れていて、密かに気づいてくれないかなと思ってもいるんですけれど、まだ反応はないですね。

中学時代はオタク的なラノベに夢中

 今もそうですが、幼いときからずっとインドア派でした。運動が得意ではない、というかずっと嫌いで。小学生のころはけっこう本に触れる日々を送っていたんです。『かいけつゾロリ』とか『こまったさん』とか『怪談レストラン』とか、児童向けの本が多かったですね。

 なかでも『怪談レストラン』は〝地獄レストラン〟というあの世とこの世の地獄の話がお気に入りで、そういうホラー要素のあるものが好きでした。

 小学校の図書室は、30冊借りるごとに本の表紙が印刷された手作りのしおりがもらえたんです。それを集めたいがために、本を読みまくっていた覚えがあります。

酒村ゆっけ、「私の本」
ご自宅の本棚

 小学生のときはそういう空想的なお話が好きでしたが、中学生になると、ラノベ(ライトノベル)へと移行していきます。『リアル鬼ごっこ』とか、当時の中学生がハマっていたものはたいてい手に取っていました。 友だちはサブカルチャー好きな子が割と多かったのですが、私はそのなかでも王道というよりは、周りの人があんまり読んでないオタク的、狂気的なものに向かっていましたね。そこに描かれている人間性に興味があったからです。

筒井康隆、太宰治、中島らもが刺さる作家

 高校時代は音楽にハマっていたので、きちんと本を読み始めたのは大学生になってからです。家にはお父さんが買った村上春樹や太宰治の本もあって、高校生のときに『ノルウェイの森』に挑戦したけれど、あまり理解できませんでした。

 大学に入ってから授業で新書を読む機会が増えて、本1冊をまるまる読む耐性が、自分のなかにもできたんです。

 それで改めて本を手にしたらドロドロした感情の描き方とか、言葉遊びの歌詞につながるような文章も散りばめられているのに気づいて、面白いな、と。それで村上春樹も読み直しました。

 なかでも自分に刺さると作家といえば筒井康隆、太宰治、中島らもという、この3人かなと思います。

革命的な文章に衝撃を受ける

 筒井康隆は、最初読んだ小説が『パプリカ』で、いまもそれが最も印象に残っています。近未来のSF小説で、精神医学研究所に勤める主人公の女性が、他人の夢に潜入して精神病を治療する夢探偵パプリカでもある、というストーリーで。

 もともと、映画と原作の違いを比較するのが好きでして。これも映画化されていますが、原作とは全然違う設定ながらすごく良質な映画で、かつ原作をオマージュしながらつくられていて、自分のなかの評価は高いもののひとつです。

酒村ゆっけ、「私の本」

 太宰治は、やっぱり『人間失格』の心情描写が好きですね。アニメでも萌えキャラになってるし、ビジュアル系な感じで映画化もされているので、ミーハーかなとも思いますけれど。太宰治作品を読むと自分が洗脳されて、ネガティブに陥りますが、決して不快ではなくて、それはそれで心地いいという感じです。

 中島らもはもうたくさん読んでいて、そのなかでも一番印象に残っているのは『バンド・オブ・ザ・ナイト』です。過去に出合ったことのない革命的な文体で、衝撃でした。

 20ページほど単語の羅列が続くところが小説のなかに4回くらい出てきて、狂気的なんです。理解しようとしても無理、と感じるような類の小説を初めて読みました。

 YouTube ではいま、〝ファッションアル中〟を肩書にしている人たちがいて、「自分はアルコール中毒だ」とネタにしています。 でもそれは違うぞ、本当のアルコール中毒ではないんだぞ、という感じで、中島らもの小説を紹介したりすることもありますね。これが真のアルコール中毒だから、軽く言葉にするのはよくないのではないか、と言ったりもしているんです。

 

次回へつづきます)
(取材・構成/鳥海美奈子 写真/後藤壮太郎)

酒村ゆっけ、(さかむら・ゆっけ
酒を愛し、酒に愛される孤独な女。新卒半年で仕事を辞め、そのままネオ無職を全う中。食べること、映画や本、そして美味しいお酒に溺れる毎日。そんな酒との生活を文章に綴り、YouTube にて酒テロ動画を発信している。

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