森本萌乃さん インタビュー連載「私の本」vol.18 第1回

森本萌乃さん「私の本」

1冊の本をきっかけとしてロマンチックな出会いを演出するマッチングサービス『 Chapters(チャプターズ)』。そのサービスを運営する株式会社 MISSION ROMANTIC の設立者・森本萌乃さんに、今回は「私の本」について伺いました。起業する際に、本に託した思いとは。


ロマンチックに本と人と出会う

 Chapters は、4冊の選書のなかから毎月1冊を選ぶと、本が届くシステムです。本のタイトルや著者名は伏せているので、作品のイメージを表したビジュアルや説明書を見て、選んでもらいます。さらに同じ本を選択した人と出会えるビデオチャット「アペロ」も楽しめるという仕組みです。

 本のタイトルなどを初めに明かさないのは、感覚で選んだ結果、それまで敬遠していた作家さんや自分が読まなかったジャンルの本と出会ってほしいからです。

 Chapters はほとんど個人情報を公開しないでユーザー同士に会ってもらいますが、それは条件を細かく提示して効率を求める最近のマッチングサービスとは正反対の手法です。

 20代後半の頃に私はマッチングサービスを利用していたけれど、条件をどれだけ擦り合わせてもうまくいかないし、「出会い方がロマンチックじゃないな」と、そう感じていました。

 出会いってハンカチを落としたら拾ってくれるとか、バーでカクテルをご馳走してくれるとか、日常の延長線上に訪れてほしいもの。それで「ロマンチックな出会いって何だろう」と考え続けていたときに、たまたまテレビで映画『耳をすませば』を観て、視界が開けた思いがしたんです。

 主人公・雫ちゃんは図書館で自分が借りた本をきっかけにして、相手と出会います。そのラブストーリーに、もうグッときて。それなら、本棚で伸ばした自分の手が、思いがけず相手の手と重なるような出会いを提供するサービスができないかなと考えました。

 物語のどこにキュンとしたかを整理するために「耳すま」のシネマコミックも読んで、一度あら筋を書きだしたりもしましたね。

 中学3年生のふたりが本という趣味によって出会うものの、夢が障壁となってしまう。それでも互いに自分の夢と向き合うという精神性が自立しているし、もうポジティブでしかない。素晴らしい物語だと改めて感動しました。

人生を変えた『アルケミスト』

 自分で事業をやるにあたってはさまざまな選択肢があったと思います。サイドビジネスにするとか、他の会社に新規事業としてやってもらうとか、子会社化してもらうとか。

 どうしようかなと考えたときに、パウロ・コエーリョの『アルケミスト 夢を旅した少年』を読んですごく感銘を受けたのを思い出したんです。この本を薦めてくれたのは男友だちで、「絶対読んだほうがいいよ。もう感動しすぎて俺、タトゥー(アルケミストに登場するキーとなる言葉)彫っちゃったよ」と。

 本がいかに面白いかを伝えるのにタトゥーを入れたって凄くないですか(笑)。こんな説得力のあるやり方ないなと思って読み始めました。

森本萌乃さん「私の本」

 アルケミストには「前兆」について言及する大切なシーンがあって、その本には「前兆が訪れたときは、全世界のすべての力があなたを応援している。だから風が吹いたら、それに従ったほうがいい」と書かれていました。

 あとは「夢の忘れ方」というのがあって。主人公は羊飼いなんですが、エジプトのピラミッドのそばに宝物が埋まっている夢を見て、それを探しに行こうとします。

 でもそのためには羊を手放さなければならない。羊を置いていくか、夢を取るかと迷ったとき、「羊は僕がいなくなってしまったら悲しいだろう。でもいつか僕を忘れるだろう。僕が羊を取ったら、僕の夢は誰も忘れることすらないだろう」と。

 本当にすばらしくて、そのときに私もどうせやるなら人生のなかで最も困難なことをやろうと、起業を決めました。

 あと、MISSION ROMANTIC という会社名を決めた頃に、「これ、面白いですよ」と薦められたのが永井宏さんと岩崎有加さんの共著『ロマンティックに生きようと決めた理由』です。散文なんですが、第1章がすごく好きで。「ロマンチック」という会社名に決めて本当に良かった、いい言葉だと心から思えました。

日々、あたりまえに本を読む

 こんなふうに、私自身は本に救われてきたから、Chapters で誰かにそうした体験を与えられたらいいなとは考えています。

 そういう瞬間に出会うためには、やはり日常的に絶えず本を読むという波のなかにいることが大切なのかな、と。

 本はどうしても難しくて賢そうなイメージになってしまいがちなので、それを変えたい。なにかと組み合わせればもっと手にしてもらえるんじゃないか、なるべく本を楽しく提供したいなと考えたときに現在のマッチングという形になったのです。

 Chapters に参加することで、夜 Netflix や YouTube を観たあと1時間くらい本を読むような生活をあたりまえにしてもらえたら、本当にうれしいです。

森本萌乃さん「私の本」

 お客様の約7割は、「Chapters」をきっかけに読書を始めた方ですが、もともと本好きの方もいます。そういう方は「選書がいい」「面白い本を教えてくれる」と仰ってくれるので、それが励みになっています。

 書店とマッチングの両方の側面を持つチャプターズですが、いまの私の仕事の8割は、本を選んだり発注したり推薦文を書いたり、書店業に関することが圧倒的に多いです。本はもうあらゆる手段で探していますね。ネットやインスタなどいろんなものを見たり、出版社さんや書店員さんにも日々相談したり。誰かの夜や通勤時間、休日の1時間をもらうのはとても責任あることだから、きちんと本を味見して、自分が届けたいものを届け続けたいと思っています。

(次回へつづきます)
(取材・構成/鳥海美奈子 写真/五十嵐美弥)

森本萌乃(もりもと・もえの)
1990年東京生まれ、株式会社MISSION ROMANTIC代表/Chapters書店主。書店×マッチングの〝Chapters〟のプロトタイプとなるサービスを1年間1人でアナログ運用した後、2020年12月「本棚で手と手が重なるように出会えるオンライン書店」Chapters bookstoreβ版ローンチ、21年6月にグランドオープンし現在20〜30代の独身男女から支持を受け運営中。趣味は旅先での読書。

「私の本」アーカイヴ

作家を作った言葉〔第3回〕綿矢りさ
◇長編小説◇里見 蘭「漂白」連載第182回