◎編集者コラム◎ 『派遣社員あすみの家計簿』青木祐子 イラスト/uki
◎編集者コラム◎
『派遣社員あすみの家計簿』青木祐子 イラスト/uki
飲食店のオーナーだと自称していた恋人の理空也に騙され、うっかり優良企業を"寿退社"してしまった藤本あすみ、28歳。ただのフリーターだった理空也は姿を消し、残ったのは2人でさんざん贅沢したぶんのカードの請求と家賃の引き落とし。銀行残高は、たったの428円──
無職のひとり暮らし独身女子にとっては、かなりヘビー、いや絶体絶命の状況だと思うのですが、今作のヒロインあすみちゃんは、泣くでもなくキレるでもなく絶望するでもなく、なぜかのほほんとしているのです。スーパーでお米を買うためにスニーカーを買おうとしてみたり(ヒールだと歩きにくいから)、親友のために手作りスコーンを焼いてみたり(元カレの理空也が残していった材料を利用)。そんなことしている場合じゃ・・・という言葉を飲み込みつつ、あすみの行動を見守っているうちに、ダメダメでルーズなのになぜか憎めなくなってくるのが不思議。え、この子、真性の天然・・・!? それとも一周まわって超絶タフなの!?
著者の青木さんといえば、多部未華子さん主演でドラマ化もされた『これは経費で落ちません!』シリーズが大人気。『これ経』の森若さんが正義感あふれるクールなヒロインだったのとは真逆で、今作のあすみはふわふわと無計画に生きている平凡だけど愛すべき女の子。2人の対照的なヒロインを比べながら読んでみるのも面白いかもしれません。
金欠地獄に陥ったあすみは、派遣社員として生活を立て直していくわけですが、今作の執筆にあたっては派遣社員の方々に実際にお話をうかがう機会がありました。取材の中では、予想もしていなかったような彼女たちの本音を聞いて、ハッとさせられることもしばしば。「正社員の人たちって、夜遅くまでヘトヘトになって残業していてかわいそう」「正社員は社内の面倒な人間関係や飲み会でストレスがたまるから嫌」と、正社員を望まずに"敢えて"派遣社員という割り切った働き方を選んでいる人も多いことには、驚きました。面倒を避けるといった消極的な動機ではなく、「アーティスト活動で生計を立てられるようになるまで、生活の基盤として派遣社員を続けている」というように、夢や目標を叶えるために戦略的に派遣の道を選んでいる女性もいました。
非正規雇用の女性が増える今、お金、働き方、結婚、出産・・・人生において直面する問題は尽きません。「これが正解」というモデルになるような生き方がない時代だからこそ、自分にとって"大切なもの"は自力で探していく必要があるのかもしれません。隙だらけであぶなっかしいあすみに突っ込みながら、爆笑しながら、共感しながら、読んでいただけたら嬉しいです。