◎編集者コラム◎ 『ペダリング・ハイ』高千穂 遙

◎編集者コラム◎

『ペダリング・ハイ』高千穂 遙


ペダリング・ハイ

 

 わたしは、高千穂遙さんの担当編集者として、三代目になる。でも、ダンスは踊れない。
 初代の編集者が、定年前に取り憑かれた趣味がロードバイクで、次々にロードバイクにまつわる書籍を出版していた。高千穂さんにお声がけし、生まれたのが日本初の山岳自転車小説『ヒルクライマー』だ。かつては鬼の編集長と畏れられていた人だったらしいが、わたしの記憶では、ロードバイクの楽しさについて延々と語る優しい先輩だ。定年した今は、日本各地の坂を自転車で駆け上がっているそうだ。

 その先輩に誘われて、ロードバイクを購入することにした。九年前のことだ。何より「やせるぞ!」と言われたことが決定打になった。何を選ぶか? から楽しかった。先輩が作った、菊地武洋さんの『ロード買うなら業界一の自転車バカに訊け!』を熟読し、近所の自転車店にも通った。まずは初心者だからと、アルミ製のロードバイクを買った。安くはなかったけれど、今も乗り続けている。体重もおかげさまで減ったままリバウンドはしていない。

 購入してすぐに、友人と走りに行った。ロードバイクのポジションは、道路が間近に見えて怖いのだが、走り出してすぐにその魅力を理解できた。そう、「世界が変わる」のだ。自分の脚でこいでいるのにもかかわらず、すごいスピードが出る。景色が飛んでいく。そして、ついに世界はひっくり返った。縁石にぶつかりそうになって、急ブレーキをかけ、ジャックナイフと呼ばれる危険な転び方をしたのだった。

 怪我はしたものの、楽しさは消えることはなかった。その後自転車部を会社で結成することにもなったし、堂城賢さんの『自転車の教科書』をつくることにもつながっている。知らなかった場所へ行くことも増えた。壮大な景色に感動した。富士山をがむしゃらに登ると顔からいろんな汁が出ることも知った。

 ロードバイクに乗ることで、世界が広がったと言ってもいい。

 高千穂さんを担当するようになって、この小説の舞台になる尾根幹を一緒に走った。毎年、高千穂さんが考案した赤城山ヒルクライムにもエントリするようになった。(一昨年、ついに高千穂さんに完走タイムで負けたときには、ものすごく喜ばれたっけ)

 本書『ペダリング・ハイ』には、そんなロードバイクに乗ることの楽しさが凝縮されている。ロードバイクを買おうか迷っている人、はじめたばかりの人にはうってつけの小説だと断言できる。自分が乗り始めたことで、友人・知人に10台はロードバイクを買わせた私が面白さを保証します。

──『ペダリング・ハイ』担当者より
 
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