読んで感じたいアートの世界
人が芸術に憧れるのは、およそ形を持たない感情や感動に形や音や色彩があたえられ、その奇跡に感動するからかもしれない。芸術の秋。絵画や音楽・芸術に関する本を選んでみました。
①『美しき愚かものたちのタブロー』原田マハ
今年、上野の国立西洋美術館で開催された「松方コレクション展」の開催に合わせるように発売されたのがこの作品。
極東の日本に本格的な西洋美術館を建てたい! という大志を抱き、世界に名だたるコレクションを一代で築き上げた稀代の収集家松方幸次郎氏と名画の数々。戦争や時代に翻弄され数奇な運命をたどった絵画とそれに関わる人間のドラマチックなストーリー。キュレーターの原田マハさんだからこそ描きだせる、絵画に魅せられた人々の物語に感動し感謝したくなる作品。
②『月と6ペンス』S・モーム
ゴーギャンに着想を得て発表されたモームの代表作にして古典的名著。
家族も仕事も、安定した生活の一切を捨て、美への熱情のままに生きた天才画家の物語。
破天荒な天才の生きざまに目が行きがちだけど、同時に「凡人」である語り部の記者の目線を通して描き出される人間ドラマは秀逸で、時代を超えて読み継がれてほしい作品。実は私がゴーギャンやゴッホの作品に憧れるきっかけになった小説です。今回、金原瑞人氏の新訳で再読。改めてオススメです。
③『祝祭と予感』恩田陸
ベストセラー『蜜蜂と遠雷』の登場人物の過去とその後の物語がちりばめられたスピンオフ短編集。もうそれだけで読むしかないと思わせてしまう作品の強さ。そして、どの短編も期待を裏切りません。
中でも、ピアノコンクールの課題曲「春と修羅」に纏わるストーリー「袈裟と鞦韆」の中で、頭の中で鳴っている音と記譜をすり合わせていく作業の困難さについての語りがとても印象的。
頭の中の映像や音・色彩を、表現できる技術を持った人が天才ならば、それを読解し、共感する者もまた芸術家の一端を担っているのかもしれない。
だとすれば、私たちも芸術の中に生きている。そう考えるとちょっと楽しい。