◎編集者コラム◎ 『父のおともで文楽へ』伊多波 碧

◎編集者コラム◎

『父のおともで文楽へ』伊多波 碧


父のおともで文楽ヘ

 私が本書の著者である伊多波碧さんにお目に掛かったのは、ある文学賞の授賞式の会場でした。「紹介したい方がいます」と文芸評論家の菊池仁さんが声を掛けてくださり、他社の編集者の方と一緒に名刺交換をしたのです。その時は、殆ど話もできないままでした。

 後日、改めて伊多波さんとお会いして話をしました。文学賞のパーティーで運営スタッフのお一人として働かれていた姿が、目に浮かびました。あまりご自分を押し出さない印象がありましたが、既に何冊も書かれている時代小説ではなく、現代を舞台にしたものを書いてみたいとのことでした。そこで、お書きになりたいものがあれば拝見したいとお願いをしました所、本作となるプロットがメールで届いたのです。一読して、「これは読んでみたい!」と思いました。こちらは定年間近のオジサンですし、文楽鑑賞は何度かあるもののファンになった訳ではなく、自分でも不思議でした。

 伊多波さんから届いた第一稿を読んで、最初の気持ちが間違っていなかったことを感じ、刊行に向けて動き出しました。販売の文庫担当者(若い男性です)に読んでもらった所、「心に沁みる良い小説ですね」とのコメントをもらい、意を強くしました。主人公の気持ちに寄り添える編集部の女性に引き継ぎをしました。デザイナー、イラストレーターにも原稿を読んでいただきその上で行った打合せに同席しましたが、「文楽を観に行きたくなりました」という感想も出て盛り上がりました。イラストレーターの方は、ラフを色付きで4点も描いてくださいました。どれもいい出来でしたので、本に使用したイラストとは別の1点を、書店さんや書評家に配る「プルーフ本」のカバーに使わせてもらいました。校正は、文楽もご覧になるという会社のOBにお願いしました。

 プルーフ本を配布して戻ってきた書店員さんからの感想も、本書に共感してくださるものが多く寄せられました。今回、帯などに推薦コメントとして出せなかったのは残念です。

 この『父のおともで文楽へ』は、37歳の佐和子が今の境遇に不安と不満を抱えながら生きる中で、いつしか文楽の魅力に惹かれていくというストーリーです。家族小説であり、喫茶店好きにはニヤリとする場面も。文楽を全く知らなくても、佐和子の境遇とは違う立場の人間でも、惹きつける魅力を持った作品です。是非、ご一読ください!

──『父のおともで文楽へ』担当者より
 

『父のおともで文楽へ』

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