◎編集者コラム◎ 『ラーメン らーめん ラーメンだあ!』一柳雅彦

◎編集者コラム◎

『ラーメン らーめん ラーメンだあ!』一柳雅彦


ラーメン らーめん ラーメンだぁ!

〈ラーメンと、サラリーマンと、ホームラン。〉

 著者・一柳さんとの打ち合わせ場所は決まっています。新宿西口大ガード近く、昼前からお酒が飲める焼き鳥屋。都内では見かけないある銘柄のビールを旨そうに、だけどチビチビと飲みます。一柳さんは、このビールを扱う飲料会社の営業職に長く就いていました。ビール関連会社の営業マンとは、きっとハードなお仕事でしょう。良いことも悪いこともきっとあったろうし、定年までの苦労も想像できます。しかし、一柳さんの人生にはそれとは別に、もう一つの軸がありました。それがラーメン道を極めることです。

 食したラーメンは9800杯! 現在のようにネットに情報が溢れる前の時代。一柳さんは自らの好奇心の赴くままに未知なる味を求めました。ラヲタ(ラーメンオタク)業界の草分け的存在となり、「TRYラーメン大賞」審査員も第1回から12回まで務めています。

 さてようやく小説の話です。その名もずばりの『ラーメン らーめん ラーメンだあ!』は、グルメ小説であると同時に、サラリーマン小説ともいえます。主人公青木は38歳独身男で、おしぼりを扱う会社の営業マン。出世は周回遅れで、生きがいはラーメンだけです。しかし、ある日、路地裏にひっそりオープンしたラーメン店に足を運ぶことで人生が好転します。店主に舌を見込まれ、ある居酒屋チェーンの商品開発に携わることになった青木は、本業の営業でもホームランを打ちました。

 本書の解説を務めたdancyu編集長・植野広生氏は、「仕事はそこそここなして趣味や別の世界のことを楽しむというタイプは多いが、実際はどちらも中途半端になっているケースが多い(中略)しかし、青木は趣味を優先し、徹底して打ち込む(中略)こうしたはぐれ社員(?)が自分の幸せを追求した結果、会社に多大な恩恵をもたらすこともある」と書いています。組織に身を捧げることが意味ももたなくなった現代、植野氏は青木の生き方に「新しいサラリーマン像」をみました。

 とはいえ、それは小説の話。著者の営業マン時代はもう数十年前のことです。会社に人生を捧げることこそ本道とされた当時にあって、ラーメン食べ歩きは邪道だったでしょう。青木のように会社生活とラーメン道の利害が一致したことがあったかどうか。一柳さんはそのあたりを進んで語ろうとはしません。ただし私は、一柳さんが今、こうして双方の経験を活かした小説を書き上げたことこそ満塁ホームランだと思うのです。

 本書は、卓越したラーメン愛をベースにしながらも、隠し味としてサラリーマン人生のエッセンスが加えられた一品です。どうぞ召し上がってください。

──『ラーメン らーめん ラーメンだあ!』担当者より
 

ラーメン らーめん ラーメンだあ!

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