伊多波 碧『犬飼ですが、猫しか診ません』

伊多波 碧『犬飼ですが、猫しか診ません』

猫しか出てこない(はずだった)話


 こんにちは。わたし、チーちゃん。チワワです。
『犬飼ですが、猫しか診ません』
 この本、わたしが書きました。……まあ、正確には「書かせました」。
 だって、主役はわたし。なのにタイトルからして猫推しって、どういうことですか。

 お出かけ中に気分が悪くなって、飼い主に抱っこされて避難所内の仮設動物病院へ。
 そしたら出てきたのが犬飼。名前に「犬」がついてるくせに、「犬はお断りだ」って言うんです。
 わたし、ぷるぷる震えました。寒さじゃなくて怒りで。あと、ちょっと呆れて。
 だって、飼い主が連れていってくれたのは、仮設〝動物病院〟なんですよ?
 しかも犬飼、「ぼくは獣医師じゃない。猫の通訳だ」って。
 ……は? ここ、〝動物〟病院ですよね? 〝動物〟って、犬も含まれてますよね?
 わたし、チワワ語しか話せないんですけど。

 犬飼の病院は、なんか変でした。猫たちは脱走したり誘拐されたり、わたしもちょっと行方不明になったりして。まあ、そんな感じで、猫と犬と人間が右往左往するお話です。
 この本には犬飼のこじらせた愛と、猫と人間のドタバタが詰まってます。あと、わたしのかわいさも。
 読んでくれたら、わたし、しっぽをふりふりします。それが、わたしの「読んでくれてありがと♡」です。

──ここからは著者より。

 うちには双子の白猫がいます。偏愛してます。
 猫の毛なら吸いこんでも平気です。むしろ吸いたい。でも、実は犬も好きです。飼ったことはありませんが。チーちゃんには「口だけじゃん」って言われそうです。

 町に出没した熊が飼い犬を引きずっていった、なんていうニュースに触れると動揺します。
 熊は窓ガラスを破って家にも侵入することがあるようなので、家猫も安全とは限りません。もしうちの猫たちが狙われたら……と想像するだけで震える。と思っていたら、この間、夢で熊に家へ侵入されるという恐怖を味わいました。

 この本は猫を偏愛する犬飼が、犬と人に翻弄される話です。
 犬飼以外の登場人物もみんな少しずつこじらせていて、でもそれぞれに誰かを守ろうとしています。 猫でも、犬でも、大事な存在は人間に限らない。

 この本が、誰かのしっぽにそっと触れますように。
 猫好きな方にはもちろん、犬好きな方にも。
 そして、チーちゃんのふりふりが、あなたの心に届きますように。

  


伊多波 碧(いたば・みどり)
1972年、新潟県生まれ。信州大学卒業。2001年、作家デビュー。23年、「名残の飯」シリーズで、第12回日本歴史時代作家協会賞シリーズ賞を受賞。おもな著作として、『裁判官 三淵嘉子の生涯』『夏がいく』『やなせたかしの素顔 のぶと歩んだ生涯』などがある。

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犬飼ですが、猫しか診ません

『犬飼ですが、猫しか診ません』
著/伊多波 碧

◎編集者コラム◎ 『有罪、とAIは告げた』中山七里
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