語り出したらきっと止まらない、読んでみてほしい本
『最良の嘘の最後のひと言』(河野裕著)のたくさんの嘘とほんの少しの本当。
読後の爽快感はたまらない!
ウチには84歳くらいになる猫がいる。メスのくせに牙の先が少し欠けた元・野良だ。流石に老いは感じるが会話もする(つもり)し、家族の一員だ。『おやすみ、リリー』(スティーヴン・ローリー著)には作者の実際の愛犬との思い出が詰め込まれている。純粋な瞳のリリーは初対面から主人公、テッドの心を掴み、かけがえのない存在となっていく。テッドが恋人との別れもあり、ぐらぐらの感情に振り回されるが、常にリリーに救われる。が彼女にも老いと病が襲う。そして闘病の末の別れ。打ちひしがれるテッドの心にリリーの声がする。「ひとつきで! じゅうぶん! かなしむのは!」。深い愛情がどっと流れ込んできた。ありがとう、リリー。幸せの時間を。
ぐらぐらするといえば恋愛? 『芦田川』でもとにかくやるせない男女の心が入り乱れる。作者の今井絵美子さんは時代小説でこまやかな心の機微を描いてきた方だが、初の現代小説でもそれは存分に発揮されている。舞台は高度成長期の広島県福山。常に男がいないと生きていけない母を持つ不器用な長女。真面目な夫との念願のマイホームに父親違いの美貌の妹が同居を始めた時から運命の歯車が狂いだす。ただ誰かを好きになっただけなのに、ほんの少しの嘘のせいでどうしようもなく空回りを繰り返すのだ。一人の男を巡っての姉妹の結末に戦慄しない男はいないだろう。姉の決断に共感する女がきっと多いだろうことにも。私だって多分、きっと……。
嘘といえば、「最良の嘘の最後のひと言」(河野裕著)では全員が嘘をついている。騙し騙されの極上のコンゲームミステリー。 「4月1日に年収8千万で超能力者をひとり雇う」。そんなバカみたいな採用試験に挑むのは、7名の訳あり自称超能力者達。のっけから採用通知を持っていた・1がビルから転落。居合わせた・4と7が奪取して逃走。さあ、おいかけっこの始まりだ。制限時間までに採用通知を手にし、正社員となれるのは誰か。共闘と裏切りの連続。そもそも超能力だって本当なのか。たくさんの嘘とほんの少しの本当。嘘の理由にもさまざまな事情があるらしく……。読み切った後の爽快感はたまらない! それにしても最良の嘘ってなんだろう。やはり「誰にとって」というところが分かれ目か。